「親ロシア派政権樹立はウクライナ人のため」か──レジーム・チェンジの罠
ブカレストのロシア大使館前に掲げられた抗議のポートレート(2022年2月26日) Inquam Photos/Octav Ganea via REUTERS
・ロシアはウクライナ軍に政府との訣別を呼びかけ、親ロシア派政権の樹立を目指している。
・ロシアの言い分ではこれが「ウクライナのため」となる。
・しかし、外国によるレジーム・チェンジは多くの場合、事態をより悪化させやすい。
ロシアがウクライナ軍に政府打倒を呼びかけた。「徹底抗戦を叫ぶ今のウクライナ政府が引っ込めば、無駄な戦闘が減り、市民の犠牲を抑えられる」というのがロシアの論理だが、そこには疑問の余地が大きい。
親ロシア派政権はできるか
プーチン大統領は26日、ウクライナ軍に対して政府に反旗を翻すよう呼びかけた。それによると、「ネオナチのウクライナ政府は子ども、女性、高齢者を人間の盾にしている」「あなたたち(ウクライナ軍)が権力を握れば、そちらの方が交渉は簡単だ」。
アメリカ政府によると、ウクライナ側の抵抗によって侵攻は予定通りに進まず、「ロシアは苛立っている」(ただし、侵攻が遅れているという証拠は示されていない)。
ロシア軍の侵攻が予定通り進んでいないかどうかに関わらず、親ロシア派政権の樹立がロシアの目的にあることは、ウクライナ侵攻当初から多くの専門家が指摘してきた。それはロシアが(全土か一部かにかかわらず)ウクライナを確保し、欧米との間に新たな「鉄のカーテン」を引く手段となる。
ロシアの言い分でいうと、ウクライナ軍が寝返って親ロシア派政権ができることは「ウクライナ人のためになる」。そうなればロシア軍との戦闘が最小限に抑えられ、市民の犠牲も小さくて済むから、というのだ。
「ネオナチ」の真実
念のために確認すると、「ネオナチのウクライナ政府」というロシアの言い分は、誇張があるとしても事実から遠くない(ロシアの肩を持つわけではないと断っておく)。
民主的な選挙により、2019年に就任した現在のゼレンスキー大統領は、自身がユダヤ系であることもあり、人種差別的でも極右的でもない。しかし、ウクライナでは2014年以来、極右勢力が大きな政治的影響力をもってきた。
その転機は、2014年のクリミア危機にあった。「ロシアの侵略に対抗する」ことを強調し、民兵として軍事作戦に参加する極右団体が相次いで発足したのだ。そのなかでも最大勢力であるアゾフ連隊は、クリミア危機後も「自警団」として市中をパトロールするかたわら、政府に批判的な者や、LGBTやロマ(ジプシー)といった少数者をしばしば襲撃してきた。
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