「フランス軍がテロリストを訓練している」──捨てられた国の陰謀論
フランスはこれまでフランス語圏のアフリカに対して、いわば家父長としてふるまってきた。家父長のお気に入りになれなかった問題児が、その権威に逆らう手段は限られる。この関係はマリが他所で、ある事ない事を言い立てる土壌になっている。
「捨てられた国」の言い分
家父長と問題児の対立に拍車をかけたのが、第二の伏線、フランスのマリ撤退だった。
マリ北部でアンサル・ディーンなどのテロ攻撃が急増した2013年、これに手を焼いた当時のマリ政府はフランスに救援を求めた。さらにその後、フランス軍はマリを含む周辺5カ国の部隊ととともに、サハラ砂漠を移動するテロ組織を共同で取り締まってきた。
フランスにしてみれば、こうしたテロ対策は自分の縄張りを守るものであり、同時にヨーロッパを標的としたテロの封じ込めという意味があった。しかし、それでもサハラ砂漠一帯のテロ活動は収まるどころか広がりをみせている。
こうしたなかでマクロンは今年7月、マリ北部にあるフランス軍基地を段階的に閉鎖すると発表した。その理由は「アフリカ一帯に拡散する過激派に対応するための編成替え」とされているが、アメリカのアフガニスタン撤退と同じく、フランスも負担の大きさに耐えかねて西アフリカでの対テロ戦争に幕引きを図っているとみてよい。
そのため、マリ暫定政権のゴイタ大統領は9月末の国連総会で「フランスがマリを捨てた」と発言し、マクロンはこれに「恥知らず」と応じた。
フランスにしてみれば「いつも頼りっきりのクセに文句だけは一人前だ」となるし、マリの立場からすれば「いつも偉そうな顔をしているクセにいざとなると頼りない」となる。
「捨てた」という発言はあまりにストレートだが、他のフランス語圏の国が家父長への忖度から口にできない一言を発したものともいえる。少なくとも、それがストレートであるだけに、そのテロ対策に限界があり、マリ暫定政権の立場を認めないフランスへの反感が広がるマリ国内では支持されやすい。
「ロシアはフランスより上手くやる」
こうして悪化の一途をたどるフランスとの関係にとって決定的な「テロリストの訓練」発言は、三つ目の伏線、ロシアの登場によって促された。
フランス撤退と入れ違いのように、マリ暫定政権はロシアの軍事企業ワーグナー・グループとの契約を発表し、10月1日にその第一陣が展開している。ワーグナーはロシア軍出身者を中心に、軍事サービスを売り物にする会社で、一言で言えば傭兵だ。その活動はウクライナやシリアだけでなく、リビアやモザンビークなどアフリカ9カ国でも確認されている。
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