コラム

「フランス軍がテロリストを訓練している」──捨てられた国の陰謀論

2021年10月14日(木)17時00分

ワーグナーは形式的には民間企業だが、実質的にはロシア軍の「影の部隊」とみられている。ロシアは自軍兵士の犠牲を嫌う欧米と対照的に、激しい戦闘も厭わない軍事協力をテコにアフリカで「頼りになる大国」としての認知を高めており、ワーグナーはその重要な手段だ。

ワーグナーとの契約にフランスは難色を示し、マリに再考を促したが、マイガ首相は「ロシア企業はフランス軍より上手くやるだろう」と述べて、これをはねつけたという。また、マイガ首相は英BBCに対して「フランスと異なり、ロシアはマリの政治に干渉しない」とも述べている。

高まる反フランス感情を背景に、マリの首都バマコでは暫定政権支持者がしばしばフランス国旗を燃やし、逆にロシア国旗を高々と掲げてデモ行進を繰り広げている。

こうした対立を踏まえると、マイガ首相の「テロリストの訓練」発言は示唆的だ。つまり、家父長の権威を貶めることで、「フランスに虐げられる気の毒なアフリカを救うためにロシアが手を貸す」という構図を描き出し、ロシアがアフリカに進出しやすくするものだ。

その意味で、マリとフランスの対立で笑うのはロシアであり、「テロリストの訓練」発言はシリアなどでみられた、イスラーム過激派に対するロシア軍の苛烈な攻撃の狼煙になるとみられるのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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