コラム

AI(人工知能)をめぐる軍拡レース──軍事革命の主導権を握るのは誰か

2021年06月16日(水)16時45分

ただし、AIの軍事利用やその開発レースには大きく二つのリスクがある。

第一に、アクシデントによる軍事衝突を増やしかねないことだ。

領空・領海を誤って侵犯した航空機や船舶などにロボット兵器が反応してしまった場合、AIの判断速度に人間がついていけず、制御できないまま、衝突が連鎖反応的に広がることもあり得る。欧州外交問題評議会のウルリケ・フランケはこうした偶発的衝突のリスクを「火花の戦争」と呼び、その危険性を指摘する。

第二に、責任の所在が曖昧になることだ。ハッキングされたり、バグを起こしたりしてロボット兵器が人間を殺傷した場合、誰がその責任を負うのか。

戦闘中の行為は、そもそも責任が曖昧になりやすい。しかし、人間が引き金を引くのではなく、機械のセンサーによって兵器が作動することは、それで犠牲者が出ても、人間が軍事力の行使に最終的な責任を負うという意識をこれまで以上に希薄にしてしまう。

そのため国連ではロボット兵器に関する規制に取り組んでおり、その責任者である日本の中満泉・国連軍縮担当上級代表は昨年、米Politicoのインタビューに「2年以内に」ロボット兵器の国際的な規制に目処をつけられると語っていたが、ロシアや中国だけでなくAIの軍事利用に熱心なアメリカやイギリスもそれに抵抗している以上、近い将来に意味のある規制が生まれるとは想定しにくい。それはAI軍拡レースをさらに加速させるだろう。

こうした懸念があっても、相互の敵意と警戒によってエスカレートするAI軍拡レースは、歯止めなく深刻化する世界情勢の縮図といえる。その行方がどうなるのか、それこそAIにでも聞くべきだろうか。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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