ミャンマー軍政と対立する少数民族に中国がコロナワクチン接種をする理由
それにも関わらず、中国赤十字はKIA支配地域でワクチン接種を進めているのであり、アル・ジャズィーラは2月以来すでに2万人が接種を受けたと報じている。
敵の味方は敵か?
関係の構図だけみると、軍事政権の後ろ盾である中国がKIAを敵視しても不思議ではない。それにもかかわらず、中国赤十字がKIA支配地域でワクチン接種を進めていることは、ミャンマーと中国の複雑な関係を象徴する。
一言でいえば、KIAは軍事政権と衝突していても、その後ろ盾である中国とは必ずしも敵対していないのである。「敵の敵は味方」という古い格言があるが、「敵の味方が敵」とは限らない。
その一つの転機になったのが、2015年10月に結ばれた全国停戦合意(Nationwide Ceasefire Agreement)だった。これはミャンマー各地にある8つの反政府少数民族の武装組織とミャンマー政府・軍の間で結ばれたもので、武装組織の武装放棄などが合意された。
この会議の議長だったのは、軍事政権をかつて率いたテイン・セイン元将軍で、「この合意は我々から将来世代への歴史的な贈り物だ」と自画自賛した。
国軍に忖度した先進国
しかし、自ら少数民族を弾圧し続けた者の発言を鵜呑みにはできない。
実際、8つの武装組織が全国停戦合意に参加した一方、7つの武装組織はこれに参加せず、そのなかにはKIAも含まれた。全国停戦合意ではKIAなどが求める自治権などについて触れられなかったからだ。
なぜ多くの当事者がボイコットするような合意が成立したか。
この全国停戦合意は、国連の他、アメリカ、イギリス、ノルウェー、そして日本などの調停で実現した。ところが、ミャンマーへの経済進出を目指したい各国はミャンマー政府・軍に配慮し、その意向を汲んだ協議に終始した。
その結果、KIAなど7つの武装組織は全国停戦合意を「降伏に等しい」と拒絶したわけだが、これらは軍事政権と対決を続けるうえで西側の支援も期待できなくなったのである。
二股をかける中国
こうした状況のもとでKIAが接近した相手は、まさかの中国だった。
2018年、KIAはミャンマー最大の反政府少数民族組織、ワ州連合軍(UWSA)と同盟を結んだ。UWSAは冷戦時代のビルマ共産党にルーツがあり、歴史的に中国と深い関係をもつ。
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