コラム

支持低下のBLMは何を間違えたか──公民権運動との決定的な違い

2021年04月27日(火)17時25分

実際、公民権運動が要求した「公共の場での差別の禁止」は、「過去の贖罪」や「経済的な平等」といったテーマに比べて、まだしも白人穏健派から受け入れられる余地があった。さらに、平和的デモを白人警官が力づくで取り締まる光景は、むしろ白人穏健派の疑問を呼ぶものでもあった。

その結果、白人の穏健派の多くは公民権運動を積極的に擁護しないまでも、拒絶することは徐々に減っていき、この気運が人種隔離の段階的な撤廃につながったわけだが、そこにはキング牧師の情熱だけでなく「黒人以外を取り込む」戦略があったといえる。

差別される側の変革

公民権運動の教訓に引き比べると、BLMには課題が多い。

一部とはいえ、参加者が貧困や抑圧の憂さを晴らすような略奪や破壊に向かったこと、そして白人などの理解が得にくい「警察の予算削減・規模縮小」というゴールを掲げてきたことは、BLMに対するアメリカ社会全体からの支持を減らしてきたといえる。

だとすると、BLMには抗議活動のなかでの犯罪行為を減らし、第三者も受け入れられるような目標を設定する必要があるが、そのためには社会への不満を募らせて憤るデモ参加者を納得させ、公権力と冷静な対話を行なえる指導部が不可欠だ。ところが、SNS時代の抗議活動はこれといったリーダーを欠いたまま進みやすく、それは爆発的な広がりを可能にしても、継続的、建設的な活動は乏しくなりやすい。それは結局、社会における差別と分断を再生産することにもなる。

差別撤廃の実現は、差別する側の意識だけでなく、差別撤廃を求める側の目標や行動パターンの変革をも必要としているのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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