コラム

「死ぬ用意はできている」──なぜエチオピア少数民族は絶望的な戦いに向かうか

2020年12月11日(金)16時45分

隣国スーダンのカッサラ州に逃れたエチオピアの難民(11月22日)  MOHAMED NURELDIN ABDALLAH-REUTERS

<絶望的なまでの戦力差があるにもかかわらず、少数民族ティグライがエチオピア軍に抵抗を続ける背景には、「反体制派」の汚名を着せられることへの拒絶があり、その構図には幕末の戊辰戦争に通じるものがある>


・アフリカ北東部のエチオピアでは少数民族ティグライとエチオピア軍の戦闘がドロ沼化している

・ティグライ人の武装組織は、圧倒的な戦力差があるにもかかわらず、政府の降伏の呼びかけも無視してきた

・ティグライにとっては降伏が「反体制派」の烙印を受け入れることになり、それを拒絶して絶望的な戦いを続けているといえる

エチオピア政府の勝利宣言

アフリカ北東部のエチオピアでは11月28日、同国北部ティグライ州の州都メケレを制圧したと政府が発表した。ティグライ州には少数民族ティグライ人が多く、その州都メケレはティグライ人の武装組織「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」の本拠地でもある。

エチオピア軍とTPLFの間では、11月初旬から衝突がエスカレート。これまでにティグライ州から逃れた難民は約5万人にのぼる。

圧倒的な戦力で11月末にメケレを包囲したエチオピア軍は、TPLFに対して72時間以内に投降するよう最後通告を出していた。これに対して、TPLF指導部がこれを拒絶したため、投降の期限である11月26日、エチオピア軍はメケレへの侵攻を開始。わずか2日後に「勝利宣言」を出したのである。

「メケレ制圧」を宣言したエチオピア軍は、TPLFの組織的抵抗は終わったと説明している。

しかし、政府による事実上の勝利宣言の後も、TPLFは戦いが今も続いていると主張。現地で活動する援助関係者も、アル・ジャズィーラのインタビューにメケレ周辺で戦闘が続いていると証言している。

エチオピア政府はこれまで戦闘拡大を懸念する国連や周辺国の働きかけを拒んできた。そのため、エチオピア軍の「勝利宣言」は海外に「戦闘の終結」をアピールするための情報操作である公算が高い。

「死ぬ用意はできている」

とはいえ、たとえ「勝利宣言」がプロパガンダだったとしても、TPLFが圧倒的に不利な状況にあることは間違いない。

ティグライ人はエチオピア人口の約7%に過ぎない。そのうえ、エチオピア軍は戦闘機や戦車まで繰り出している他、アラブ首長国連邦(UAE)から提供された軍用ドローンまで投入しているとみられている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

企業向けサービス価格3月は2.3%上昇、年度は消費

ビジネス

スポティファイ、総利益10億ユーロ突破 販促抑制で

ビジネス

欧州委、中国のセキュリティー機器企業を調査 不正補

ビジネス

TikTok、簡易版のリスク評価報告書を欧州委に提
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story