コラム

「死ぬ用意はできている」──なぜエチオピア少数民族は絶望的な戦いに向かうか

2020年12月11日(金)16時45分

圧倒的に不利な戦いであることは、TPLFも理解している。エチオピア軍の最後通告に対して、TPLF指導部は「死ぬ用意はできている」と応じていた。

なぜTPLFは絶望的な戦いに臨むのか。そこには、かつて権力の中枢にいた者が、時世の変化で「反体制派」のラベルを貼られることへの抵抗がある。

ティグライの栄光

TPLFが権力の中枢におさまったきっかけは、1970年代半ばから1990年代初頭までの内戦にあった。エチオピアでは当時、社会主義政権に対して国内の4つの反政府組織が抵抗を続けていたが、TPLFはそのうちの一つだった。

当時の反政府勢力のなかでTPLFが頭角を現したきっかけは、4つの武装組織が一つの連合体「エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)」を結成したことにあった。この時、中心になったのがTPLFだったのである。

TPLFのリーダーだったメレスの類まれなリーダーシップのもと、連合体EPRDFは1991年に首都アディスアベバを陥落させ、社会主義政権は崩壊した。その後、TPLFをはじめ4つの武装組織は政党に衣替えし、首相に就任したメレスのもと、EPRDFは4政党の連合体として政権を担うことになった。

EPRDF政権のもと、エチオピアでは2000年代に農業の多角化などの改革が身を結び、2015年までの平均で約8%(世界銀行)という高い成長率を記録し、そのパフォーマンスはアフリカでもとりわけ注目度の高い国になった。エチオピア政府の計画性と実行力がこうした経済成長の原動力になったことは疑いない。

多数派オロモの巻き返し

しかし、それにつれてエチオピア政府のなかでは、メレスをはじめとするTPLFの影響力が増し、民族間の緊張が高まっていった。なかでもエチオピア人口の約35%を占める最大民族オロモの間には、ティグライの風下に立たされることへの不満が増した。

その結果、TPLF中心のエチオピア政府がオロモ人の政治家や運動家を政治犯として拘束することが目立つようになったのだ。メレスは2012年に病没したが、その後も状況はほとんど変わらなかった。

こうしてTPLF中心の政府に対して、オロモの抗議活動が高まるなか、エチオピア政府は2018年、南部オロミア州に非常事態宣言を発令。当局に批判的なオロモ人が「テロリスト」として片っ端から連行される事態に、政府内からも懸念や批判が噴出した。

その結果、オロモ出身のアビー氏を首相に据えることで民族間の緊張緩和が図られたのである。

エチオピア版「戊辰戦争」の行方

オロモ出身のアビー首相は、政治犯として収監されていた1万人以上のオロモ人を釈放するなど、それまでの行き過ぎた抑圧を大きく転換させた。

しかし、その一方で、アビー政権は政府や国営企業に根を張っていたTPLF系の既得権に切り込み、数多くのティグライ人が汚職などの容疑で公職を追われることになった。例えば、アビー政権発足から間もない2018年11月だけで約60人の政府高官が逮捕されている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国憲法裁、尹大統領の罷免決定 直ちに失職

ビジネス

先駆的な手法を一般化する使命感あり、必ず最後までや

ワールド

米ロ関係に前向きな動き、ウクライナ問題解決に道筋=

ビジネス

外部環境大きく変化なら見通しも変わる、それに応じて
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 2
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 3
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のために持ち込んだ?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 6
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 7
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 10
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story