世界の流れに逆行する日本──なぜいま水道民営化か
火の車の水道事業
なぜ、政府は民間企業の参入を促そうというのか。政府の説明によると、その最大の理由は深刻な赤字を克服するためという。
少子高齢化・人口減少にともなって水道水の消費量は減少しており、厚生労働省によるとピークだった2000年の一日3900万立法メートルから、2014年には3600万立法メートルに減少しており、このペースでいけば2060年には2200万立法メートルにまで落ち込むと推計される。
これは水道料金の収益の減少を意味する。水道事業は独立採算制が原則で、基本的に水道料金で運営されているからだ。その結果、水道水の消費量が減れば減るほど水道料金が上がるという構図があり、既に筆者が暮らす横浜を含め、多くの自治体では水道料金の引き上げが実施、あるいは検討されている。
それでも、ますます老朽化する水道施設の更新や自然災害の多発などで多くの資金が必要になっているため、料金引き上げだけでは追い付かない。平成10年に1兆8000億円を超えていた水道事業への投資額は、平成25年には約1兆円にまで下落した。おまけに、団塊世代の退職で水道職員は30年前と比べて約30パーセント減少している(いずれも厚生労働省)。
こうして火の車になっている水道事業を救う一手として政府が提案しているのがコンセッション方式で、民間企業の資金、人材、ノウハウを投入することにより、効率的な経営と財政赤字の圧縮が期待されているのだ。
逆行?それとも周回遅れ?
こうしてみれば、水道の「民営化」に問題はないどころか、必要不可欠にもみえる。JRやNTTの「成功」は、これを後押しするかもしれない。
ただし、水道民営化は世界の潮流に完全に逆行するものだ。
トランスナショナル研究所と国際公務労連の調査によると、2000年から2014年までの間に、世界35ヵ国で民営化されていた水道事業が再び公営化された事例は180件にのぼり、このうち136件は高所得国でのもので、44件が中低所得国だった。
そもそも水道民営化は、世界レベルでみて新しいテーマではない。
イギリスやフランスでは財政赤字が深刻化した1980年代に水道民営化が始まり、東西冷戦終結後の1990年代にこれは各国に普及した。とりわけ、開発途上国への融資を通じて影響力をもつ世界銀行がこれに熱心で、「民間の活力を注入することで、効率的かつ持続的に水道事業を提供できる」ことを強調してきた。
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