世界の流れに逆行する日本──なぜいま水道民営化か
そのプロジェクトの多くで、日本政府が今強調している、所有権を民間企業に譲渡しないコンセッション方式や官民パートナーシップ(PPP)なども採用されている。
つまり、この点で日本は周回遅れとさえいえるが、問題は一旦民営化されていた水道が再び公営に戻されるケースがむしろ目立つことで、そこには水道民営化が抱える問題がある。
「民間の活力を取り入れればうまくいく」か?
まず、コスト削減優先の民営化は、安全対策の手抜きを生んだ。イギリスでは1990年代に赤痢患者が増え、フランスでも未殺菌のままでは飲めない水が提供されるなどの問題が頻発した。
これに加えて、水道料金の高騰も各地で確認された。民間企業である以上、採算がとれなければ話にならないので、公営以上に水道料金の引き上げは簡単に行われるため、例えばパリでは1985年から2009年までに265パーセント上昇した【Asanga Gunawansa, Lovleen Bhullar, Water Governance, p.378】。
それだけでなく、民間企業による不正も目立ち、例えば世界に先駆けた事例の一つであるパリでは、2002年の監査で経済的に正当化される水準より25~30パーセント割高の料金に設定されていることが発覚した。
こうした問題を受け、一旦民営化されたものが、契約期間が切れるのと同時に再公営化される、あるいは契約をうちきっても再公営化されるケースが後を絶たないのだ。パリの場合、2010年に水道大手ヴェオリアとスエズの二社との契約が切れた後、再公営化された。
イギリスのシンクタンク、スモール・プラネット・インスティテュートによると、民営化された事業が行き詰って再公営化される割合は、エネルギーで6パーセント、通信で3パーセント、輸送で7パーセントだったのに対して、水道の場合は34パーセントにのぼる。
食い荒らされる開発途上国
とはいえ、先進国はまだましともいえる。
先述のように、開発途上国での水道民営化は世界銀行によって旗が振られたが、この機関は先進国の影響力が強いことで有名だ。そのため、世界銀行の勧告に従って水道事業を民営化した開発途上国に欧米の巨大企業が進出し、その国の水道事業がほぼ独占されることも稀ではなかった。
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