アメリカで台頭する極左アンティファとは何か──増幅し合う極右と極左
CNNのアンカー、クリス・クオモ氏の立場は、より明確だ。クオモ氏は2018年8月14日の放送で、警官やジャーナリストへの暴力と「頑固な偏見をもつ者」への攻撃は同じでないと主張。「道徳的にいってナチスとアンティファは等価値ではない」、「誰かを殴ることは法的には同じだけの重みがあっても、道徳的にはそうではない」と述べ、ヘイトを力ずくで封じるアンティファに理解を示した。
調査機関インヴェスティゲイティヴ・ファンドによると、2008年から2016年までの間にアメリカで発生したテロ事件のうち、白人右翼によるもの(115件)はイスラム過激派(63件)のものを上回る。特にシャーロッツビルでの衝突後、白人至上主義者への風当たりは強く、「毒をもって毒を制す」という大手メディアの論調は多かれ少なかれ「良識派」の声を代弁するものかもしれない。
とはいえ、この論調は逆効果になり得る。社会からの疎外感が白人右翼の凝固剤になっているとすれば、大手メディアによるアンティファ擁護は、もともとメディアへの不信感が強いトランプ支持者の結束を強める効果をもつとみてよい。だとすれば、メディアを含むエリートの支配を打破する救世主としてトランプ氏を仰ぐQAnon(Qアノン) の登場も、この背景と無縁ではない。
こうしてみたとき、極右の台頭が極左の台頭を促したことの裏返しで、極左に関する認知の向上は極右の反動を強めるといえる。言い換えると、極右と極左の影響力はお互いに相殺されるのではなく、お互いに共鳴しながら増幅している。それは結果的に、アメリカの分裂をより深刻にしているのである。
筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。
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