コラム

アメリカで台頭する極左アンティファとは何か──増幅し合う極右と極左

2018年08月22日(水)17時00分

シャーロッツビル事件から1年、白人至上主義者の記念集会に抗議して集まったアンティファのメンバー。黒人差別の象徴である南軍旗を燃やす(2月18日、首都ワシントン) Lucas Jackson-REUTERS

<白人極右やトランプ支持者の人種差別や性差別に対する反作用として台頭した戦闘的左翼。対抗し合うことで勢力を増す両者が、アメリカの分裂をますます深める>

白人極右によるヘイトクライム(憎悪犯罪)が注目を集めるアメリカでは、それを凌ぐほどの勢いで極左が台頭している。ヴァージニア州シャーロッツビルでは2017年8月12日と13日、南北戦争の南軍司令官リー将軍の銅像撤去に反対する白人至上主義者のデモ隊と、これに抗議する極左団体アンティファが衝突し、3名の死者を出した。その一周年にあたる今年8月12日、ワシントンで計画されていた白人至上主義者のデモは、人数でこれを上回るアンティファの抗議を前に、自発的な中止に追い込まれた。急進的左翼アンティファの台頭は右翼の過激化への反動であり、コインの両面といえる。

アンティファとは

アンティファとはアンチファシスト(anti-facist)の略称で、人種差別や性差別などに反対する団体である。アメリカには白人警官による黒人容疑者への暴力を批判し、抗議デモで世論を喚起する「ブラック・ライブズ・マター」などの社会運動があるが、これらとの決定的な違いは、アンティファが暴力を辞さない点にある。

アンティファは他の左翼やリベラル派と同じく「多様性」や「包摂性」を強調し、ヘイトに抗議するが、主な活動はその価値観の普及ではなく、人種差別主義者、性差別主義者とみなされる個人・団体への妨害や襲撃にある。

シャーロッツビルでの衝突から約半月後の2017年8月27日には、カリフォルニア州バークレーで、トランプ支持者の集会にアンティファが乱入。この集会には白人至上主義者以外も参加していたが、アンティファが見境なく暴行を加える様子が映像に記録され、14人が暴行容疑などで逮捕された。

戦闘的左翼の誕生

アンティファは小さな団体や個人のネットワークで、全体を代表する指導者や組織はない。そのため、全貌は明らかでなく、支持者の人数も不明だが、著名な哲学者ノーム・チョムスキーをはじめ多くの専門家は、アンティファのルーツがファシズムの台頭した1930年代のヨーロッパにあるとみている。

国家権力への不信感が強く、弱者の人権を強調する運動の流れは、第二次大戦後のヨーロッパで反戦運動、学生運動、環境保護運動などを吸収しながら生き残り、冷戦後の1990年代には地球規模での市場経済化に反対し、これを進めるG7やG20の首脳会議にもバリケードを設けたりして抗議する反グローバリズム運動に発展した。

これらヨーロッパの左翼運動には、選挙への参加や平和的なデモなどを通じて社会の変革を目指す穏健派だけでなく、破壊活動を行う急進派も珍しくない。例えば、2000年にパリ近郊でスローフード運動家が「資本の力で文化の独自性を破壊する」グローバル化の象徴とみなされたマクドナルドの店舗を襲撃・破壊したことは、その代表だ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story