コラム

急増するロヒンギャ難民の「二次被害」―人身取引と虐待を加速させる「ロヒンギャ急行」

2018年06月01日(金)13時30分

そのため、ロイター通信は2017年11月の段階で、難民キャンプ周辺でも2,462人以上の子どもが働いていると報告。なかには、14歳の少年が38日間、道路工事の建設作業員として働き、わずか6ドルしか得られなかったケースや、14歳の少女が難民キャンプ近郊の港町チッタゴンで家事労働者として働き、雇い主に性的暴行を受け、さらに歩けないほどの暴力を振るわれたケースなども報告されています。

先述の女性は「娘だけでもこの生活から抜け出せるなら」という親心から、つい人身取引業者の話を信用してしまったといいます。

このような業者の横行に当局も警戒を強めており、地元紙ダッカ・トリビューンは2017年12月までに352人の人身取引業者が裁判所で有罪判決を受け、警察がパトロールを強化していたにもかかわらず、その後も難民キャンプに39人の人身取引業者がいることを地元警察が把握していると報道しています。

「ロヒンギャ急行」の隊列が向かう先

ロヒンギャの人身取引は、バングラデシュ以外の国でも「販路」を拡大させています。とりわけ、最近目立つのがマレーシアです。

2018年5月にマレーシアメディアは、タイからマレーシアへの国境に向けて伸びる、ロヒンギャ難民の密輸ルートをタイ警察が摘発したと報道。それによると、人身取引業者が数十台のバスを連ねて陸路でマレーシアに運んでおり、これは「ロヒンギャ急行」と呼ばれます。

周辺国のなかで、マレーシアはロヒンギャにとって魅力的な国の一つといわれます。タイやインドと異なり、マレーシアはムスリム中心の国。そのうえ、やはりイスラーム世界とみなされるインドネシアやバングラデシュより所得水準が高く、雇用の機会も多いとみられるからです。

この背景のもと、もともとロヒンギャのなかには、マレーシアに出稼ぎに出かけていた人も多く、難民のなかにはこれらの親戚を頼って同国を目指す人もあります。その結果、マレーシアには10万人のロヒンギャが滞在しています。

マレーシアでも他の周辺諸国と同様、買春や年長男性との結婚のために多くのロヒンギャ難民の少女が連れてこられているとみられ、「ロヒンギャ急行」はこれをさらに増やすものとみられます。

難民の雇用は可能か

マレーシアには国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の支援のもと、ロヒンギャの難民キャンプも設置されています。ただし、マレーシアの難民キャンプには衛生環境が劣悪なものも多く、死者も数多く出ているため、ロヒンギャからは生活改善を求める声もあがっています。

この背景のもと、UNHCRの働きかけもあり、マレーシア政府はロヒンギャの就労を検討してきました。

難民の就労を可能にすることは、受け入れ国の負担を減らす新たな取り組みとして注目されましたが、雇用の奪い合いに繋がりかねないとマレーシアの労働組合が反対。人道支援と移民労働者の受け入れは別と主張してきました。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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