急増するロヒンギャ難民の「二次被害」―人身取引と虐待を加速させる「ロヒンギャ急行」
結果的に2017年3月にロヒンギャ難民にはプランテーション農園や工場などでの就労が認められましたが、合法的な雇用は必ずしも十分ではありません。それは結果的に違法な就労を促し、マレーシアに逃れたロヒンギャ難民に「二次被害」をもたらす土壌となっています。
とりわけ懸念されるのが、女性や少女を中心に、ロヒンギャ難民がマレーシアの家事労働者として違法に雇用される事態です。
家事労働者への需要
マレーシアでは家事労働者の雇用が少なくありませんが、近年ではその人員の不足が表面化しつつあります。それは家事労働者に対する虐待が社会問題化しているためです。
2018年2月、インドネシア政府はマレーシアへの家事労働者の派遣禁止を発表。インドネシア出身の家事労働者がマレーシアの家庭で虐待され、食事も与えられず、屋外で犬と一緒に寝させられ、あげくに死亡したケースが発覚したことを受けての措置でした。
家庭という閉ざされた空間において、家事労働者が雇い主から虐待や暴行を受け、最悪の場合、死に至るケースは、欧米諸国や中東の産油国などでも頻繁に報告されています。被害者はより所得の低い国からきた、教育水準の低い女性であることがほとんどです。
インドネシアからマレーシアに渡る出稼ぎ労働者は250万人ほどにのぼり、その半数は違法就労者とみられています。少女を含む女性の場合、家事労働者も多くいますが、例え合法の就労者であっても、両国間の協定において家事労働者の処遇や権利などは定められていません。
ところが、多くの家事労働者を供給していたインドネシアがその派遣を禁止したことで、マレーシアは他国からの調達に迫られています。
もともと、マレーシアはインドネシア以外にも、ヴェトナムやタイなどとともに、ミャンマーからも家事労働者を受け入れていました。そのため、「ロヒンギャ難民を家事労働者として採用すればよい」という声はマレーシア国内で以前からありました。
外国人の家事労働者をめぐる問題が頻発することを受けて、マレーシア政府が2017年3月から合法化したロヒンギャ難民の就労でも、家事労働は含まれていません。とはいえ、インドネシアがこれまでの関係を見直し、家事労働者の需要が高まる一方、ミャンマーから合法的に家事労働者としてきている者も多いマレーシアで、ロヒンギャ難民が違法に家事労働に従事することは、時間の問題とみられます。
その場合、正規に入国した家事労働者でさえ、虐待などの被害が多いことに鑑みれば、「難民の違法就労」という弱い立場のロヒンギャが同様の事態になることは増えると見込まれます。虐殺や迫害を逃れたロヒンギャ難民は、逃れた先でも生命すら脅かされる「二次被害」の危険に日々直面しているといえるでしょう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。
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