イングランド代表はロシアW杯をボイコットするか──元スパイ襲撃事件の余波
これに加えて、米国がロシア大会に予選落ちしていて、そもそも出場できないことも重要です。つまり、「他国の方針によく口を出す」米国でボイコットが話題になりにくい以上、米国以上にサッカー人気が高いそれ以外の西側諸国は、この問題にさほど熱心にならなくて済んでいるといえます。
言い換えると、英国には「ハシゴを外される危険」があります。結局フタを開けてみれば英国だけボイコット、となった場合、制裁の効果はゼロに近く、ただ出場機会を棒に振っただけで終わりかねません。
2022年も諦められるか
第三に、それでもボイコットした場合、英国はFIFAから制裁を受けます。
FIFAの規定では「出場国は全ての試合に参加しなければならない」とあり、これに違反した国は「その次の大会に参加できない」ことを含む制裁を課されます。
つまり、ロシア大会をボイコットすれば、2022年カタール大会の予選にすら出場できないことを覚悟しなければならないのです。
さらに、大会開始1ヵ月以上前に不参加を決めた場合は25万スイスフラン(約2800万円)、開始直前の1ヵ月以内の場合はその2倍の罰金が科されます。
FIFAは外交問題に関わらない方針で、ボイコットすればこれらのルールが適用されます。
先述のように、今はボイコット支持派が英国民の約半数を占めます。しかし、これらの措置が実際にとられた場合の世論の反応は不透明。英国政府にとっては悩ましいところです。そのため、メイ首相はロシア大会の開会式に閣僚や王族が出席しないと強調していても、ボイコットに関しては明言していません。
窮地で問われる英国の身上
リスクの多さに鑑みると、現状では英国政府はボイコットしない公算が大きいとみられます。多少うがった見方をすれば、W杯のボイコットにともなうリスクを避けるため、各国はモスクワ五輪の時と順序を逆にして、外交官の国外退去を先にすることで「制裁をした」というアリバイを作ろうとしたともみえます。
しかし、いずれにしても、このゲームはロシア有利といえます。先述のように、ボイコットした場合のダメージは、ロシアの国際的ダメージと同等か、それより大きいと見積もられます。逆にボイコットしなければ、「ビッグビジネスの誘惑に敗れた」という印象をもたれかねません。
それは裏を返せば、英国の苦しい立場を意味します。英国外交は「転んでもタダでは起きない」しぶとさが身上ですが、その真価がこの窮地で問われているといえるでしょう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。
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