コラム

イングランド代表はロシアW杯をボイコットするか──元スパイ襲撃事件の余波

2018年04月10日(火)19時40分

クレムリンのそばに展示されたW杯ロシア大会公式マスコット Sergei Karpukhin-REUTERS


・元スパイ襲撃事件を受けて、英国ではW杯ロシア大会のボイコットが議論となっている

・ボイコットには「制裁の本気度」を示す効果があり、逆に「ボイコットしないこと」は外交上のリスクとなる

・しかし、英国がこれを実行すれば、国際的孤立やFIFAからの制裁などのリスクが大きい

3月4日に英国で発生した、ロシアの元スパイへの襲撃事件をめぐり、英国政府が頭を痛めている問題の一つが、今年6月に開催されるFIFAワールドカップ(W杯)のロシア大会をイングランド代表がボイコットするかです。

事件後、欧米諸国は相次いでロシア人外交官を国外に退去させ、事件への関与を否定するロシア政府は、これに対抗して同様の措置を取りました。この外交的な対立のなかで浮上したボイコット案には賛否両論がありますが、英国にとってリスクが大きいとみられます。

ボイコットの賛否

事件直後の3月6日、英国のジョンソン外相はW杯ロシア大会にイングランド代表が「通常の形で」参加することを想像できないと発言。ボイコットの可能性を示唆しました。

これを受けて各社が世論調査の結果を発表。スカイニュースのウェブサイトでは52パーセントが「ボイコットするべき」と回答していますが、同じくスカイニュースのツイッターでは44パーセントが「ボイコットは何も生まない」と回答。アイリッシュ・エグザミナ紙の調査でも、ボイコットに賛成が48パーセント、反対が52パーセントと拮抗しています。

「ボイコットしないこと」のリスク

国民の賛否は分かれるものの、英国政府にとってボイコットはロシア制裁の有力な選択肢です。

2014年のクリミア危機以降、英国は国連などで再三ロシアを批判。要人の個人資産の凍結や移動の制限などの制裁を課し、さらに今回は外交官の国外退去まで行っています。

冷戦時代の1980年、ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議した西側諸国は、モスクワ五輪をボイコット。この際でも、各国は外交官の国外退去にまで踏み切りませんでした(モスクワの米国大使館改築工事中に盗聴器が仕掛けられた疑惑が浮上した1985年、米国はソ連外交官を退去させた)。外交官の国外退去には、それだけの重みがあります。

WS000222.JPG

今回、ロシア外交官を退去させたのは国連加盟国193ヵ国中29ヵ国だけ。西側諸国がさらに「ロシアの孤立」を印象付け、国際的な圧力を強めるなら、モスクワ五輪と順序は逆ですが、ビッグイベントへの不参加しかありません。

逆に、外交官の国外退去まで行ったのにW杯だけ参加すれば「制裁の本気度」を疑わせ、ロシアに足元をみられることになりかねません。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米フォード、国内で値下げを計画、潤沢な在庫を活用

ビジネス

日本のインフレ率は2%で持続へ、成長リスクは下方に

ビジネス

三菱商事、26年3月期に最大1兆円の自社株買い 年

ワールド

韓国、関税巡り米当局者との協議模索 企業に緊急支援
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 9
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story