コラム

ルーマニアはエルサレムに大使館を移すか──「米国に認められたい」小国の悲哀と図太さ

2018年04月24日(火)18時30分

イスラエルのホロコースト歴史博物館を訪れたルーマニアのヨハニス大統領(2016年3月8日)  Ammar Awad-REUTERS


・ルーマニアの与党は、エルサレムに在イスラエル大使館を移設することを決定したと発表。

・まだ大統領からの正式決定はないが、実現すれば「米国に認められるため」の小国ならではの外交戦術となる。

・この問題で国際的に孤立を深める米国に敢えて付き合うことは「追随」ともいえるが、そこには「一番高く売れるタイミングで自分を売る」という、小国ならではの図太さをも見いだせる。

北朝鮮やシリアに世界の目が向いていた4月20日、ルーマニアの与党、社会民主党は在イスラエル大使館を現在のテルアビブからエルサレムに移転させる方針を発表。これに関して、ヨハニス大統領からの正式発表はまだありませんが、もし実現すれば2017年12月に米国トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都に認定して以来、数少ない決定になります。

ルーマニアを15世紀に支配したワラキア公ブラド3世は、吸血鬼ドラキュラのモデルといわれます。これに象徴されるように、ルーマニアはヨーロッパから「辺境の小国」とみなされてきました。

そのルーマニアが、世界中から批判されるトランプ政権の「エルサレム首都認定」にわざわざつき合うとすれば、それは「米国に認められる」ためです。ただの「追随」とも評価できますが、この問題で孤立する米国に敢えてつき合うことは、その良し悪しはともかく、「自分を高く売る」、小国ならではの捨て身の外交戦術ともいえます

なぜルーマニアか

2017年12月に米国トランプ政権は、エルサレムをイスラエルの首都と認定。これにはイスラエルと対立してきたイスラーム諸国だけでなく、世界中から批判が噴出しました。ルーマニアが加盟するEUも、エルサレムの首都認定に反対しています。

その一方で、イスラエル政府によると、米国と同じくエルサレムをイスラエルの首都と認める方針の国は12ヵ国以上にのぼります。EUの方針を無視してまで大使館を移設する方針を打ち出したルーマニアは、その先陣を切る国の一つになりました

ただし、ルーマニアは必ずしもパレスチナ問題に大きな関心をもってきたわけでもありません。

ルーマニアでは他のヨーロッパ諸国と同様、テロの拡散や難民の流入をきっかけに反イスラーム感情が広がっています。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story