ルーマニアはエルサレムに大使館を移すか──「米国に認められたい」小国の悲哀と図太さ
ルーマニアの与党は、これらのコストを負担してでも、米国に「認められる」利益の方が大きいと判断したものとみられます。先述のようにルーマニアは東ヨーロッパで屈指の産油国。中東からの石油輸入への依存度が低く、さらに近年では米国が世界最大の産油国となりつつあることは、ルーマニアにとってコストを引き下げる「保険」となり得ます。
のみならず、「大きな負担をしてでも米国についていく」ことそのものが、ルーマニアにとって米国を振り向かせる手段でもあります。仮にそうなった場合、そこには小国ならではの悲哀をうかがえますが、同時に小国ならではの図太さをも見いだせるでしょう。
米国は「つれなく」することで「認められたい」ルーマニアを振り回してきました。しかし、エルサレム首都認定の問題で孤立するなか、それでもルーマニアが「献身」を表明すれば、米国はこれまでと同じ態度はとれなくなります。そうすれば、ルーマニアに続こうとする国が出てこなくなるからです。言い換えれば、ルーマニアがエルサレム首都認定の問題で米国に追随した場合、米国もルーマニアを無視できなくなるといえます。
米国に限らず大国は、ともすれば自分たちが世界を切りまわしていると思いがちです。しかし、どんな大国も支持者なしに行動することは困難です。つまり、「最も高く売れる時に売る」小国の行動も、大国の動向を左右する大きな力になるのです。
中間の国・日本
ただし、小国ならではの現実主義は、状況次第でボスを見限ることをも意味します。アジアでいえば、長年米国につき従っていたフィリピンで、中ロの台頭にあわせて、ドゥテルテ大統領が米国と距離を置き始めていることは、その典型です。
ひるがえって日本をみると、米中ロの狭間でそれらの動向に気を配らなければならない一方、国際的な発言力のためには小国の支持も必要な、いわば中間の立場です。ところが、日本国内の関心は、政府・民間を問わず、大国に向かいがちです。
日本が国際的な発言力を増そうとするなら、特定の大国にだけ働きかけたり、逆に自らの国力の充実を目指したりするだけでは不十分で、困った時に支持してくれる関係を多くの小国と築けるかが重要です。ルーマニアのエルサレム首都認定の問題は、今後の推移を見守るしかありませんが、それが中間の国・日本にもこの教訓を改めて示したことは確かといえるでしょう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。
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