コラム

中国経済の失速・デフレ化が世界金融市場の「無視できないリスク」になる

2025年01月08日(水)15時04分

経済成長を高める財政政策が見込みづらい

これらを踏まえると、中国経済は1990年代半ばの日本と同様に、趨勢的な物価下落、つまりデフレ局面に入りつつあるとみられる。1990年代の日本では、株式・土地価格の大幅下落というショックに対する政策対応に失敗して、その後も一貫して金融財政政策が緊縮的に作用した帰結として、低成長とデフレが長期化した。

この日本の経験と、2020年以降の中国が似ているとの疑念は、筆者を含めた金融市場ではかなり意識されている。これが2024年に更に強まったようにみえる。

2024年12月の中央政治局会議や中央経済工作会議では、財政政策・金融政策をより積極化させる方針が示された。一方で、習近平指導部は、地方政府による財政出動によって地方政府の過剰債務問題が悪化するリスクも示している。

これまでは習近平指導部への権力集中が図られる中で地方政府に対するカネの締め付けが続き、財政政策が緊縮的に作用し続けてきたとみられる。これが変わらなければ、経済成長を高める財政政策は発動されないだろう。

もちろん、インフレ率は独立した金融政策の責任で制御するのが、標準的な経済理論の教えである。ただ、中国人民銀行の独立性はかなり限定的で、共産党指導部の政治的な意向が強く影響するとされている。

世界経済の安定成長が崩れるシナリオも

12月25日付ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版は、「中国が経済成長再活性化のための諸策を緊急に実施しなければ、米国の大恐慌時に起きたような壊滅的なデフレスパイラルに陥る恐れがある」とする報告書が作成された、「習氏はアドバイザーらに『デフレの何がそんなに悪いのか』『「物価が下がれば人々は喜ぶのではないのか』と尋ねた」と報じている。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

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