コラム

石破政権「金融緩和に反対」姿勢は続く? 日本経済が「ねっとりした」成長になりそうな理由

2024年10月02日(水)17時00分
石破茂首相

石破茂新首相はこれまで「金融緩和反対」の姿勢を取ってきたが(10月1日) YUICHI YAMAZAKI/Pool via REUTERS

<円高・株安の「石破ショック」が市場に起こったが、石破政権で予想される経済政策は何か。2%インフレ目標についての政府と日銀のコミットメントを変える可能性は低いが>

決選投票でのまさかの逆転劇を経て、石破茂氏が新たな自民党総裁となり、10月1日から石破政権が発足した。そして、10月27日には衆院選挙が行われる見通しになった。

これまで判明している、内閣や党要職の人事、石破新首相の発言などから、石破政権において日本経済・株式市場がどうなるかを本稿では議論したい。

「高市政権」への期待から一時、円安・株高となった金融市場では、僅差での石破政権となり9月30日にかけて大幅な円高・株安に転じた。経済成長を重視して拡張的な金融財政政策を掲げる「高市政権」に対する期待が剥落したことになる。この「石破ショック」は今後も続くのだろうか。

石破政権で予想される経済政策は何か。周知のように石破氏は、安倍政権に批判的な姿勢を示して、金融緩和強化などの経済政策に対しても批判的であった。

新著『保守政治家』(講談社)では、「異次元の金融緩和では日本経済は治らない」とする一方、「金融緩和については一定の効果があった」と評価する。そして、「金融緩和によってもともと抱えている病気が治るわけではない」「金利のつかないお金が大量に市場に出回ったことで、企業が金利負担という資本主義における付加価値創造能力を失い、安きに流れた面があった」と述べている。

「安きに流れた」というのは筆者は理解できないのだが、実際には、2013年以降安倍政権下で実現した金融緩和強化によって、デフレは和らぎ、雇用は大きく増えた。アベノミクスのレガシーのおかげで、岸田政権において、インフレ率が高まり名目GDPが600兆円の大台に増えるなど、ようやく他の先進国と同様の経済状況に近づいた。

そして、金融緩和を徹底したことによって2022年以降円安が進み、輸出企業の価格競争力が高まり、国内サービス業ではインバウンドブームが起きて、日本が久ぶりに世界から見直される変化が起きつつある。

また、金融緩和が続いたことで市場機能が活性化して、企業のイノベーションが促進され、そして日本経済の問題も少しずつ治癒しつつある。財政赤字はGDP比3%前後まで減っており、来年度には財政黒字実現すらみえている(現状の2%インフレが実現していない経済状況では、財政黒字になることは望ましくなく、財政政策は緊縮的過ぎだが)。

こうした日本経済の改善が、2013年以降の日本銀行の金融緩和が続いた事によってもたらされた事実を、石破氏は十分理解していないようである。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story