昨年同様の大幅円安は再来するか?

植田日銀総裁は、デフレ期に低下した「予想インフレ」を高める必要性に言及した REUTERS/Kim Kyung-Hoon
<このところの円安進行は正直予想外の値動きだが、この動きは2つの局面に分けて説明できる。今後はどうなるのか......>
為替市場でドル円相場は、5月末に1ドル140円台まで円安ドル高が進んだ。4月初旬には130円付近だったが、約2か月間円安基調が続いている。円安進行は、筆者にとって正直予想外の値動きだが、この動きは2つの局面に分けて説明できる。
まず4月末までの円安ドル高は、主に日本側の要因で円安が進んだ。4月に就任した植田日銀総裁が、金融政策の修正に対して慎重な考えを示したことが円安をもたらした。植田総裁は、これまでのところ黒田前総裁らと変わらない姿勢を示し、更に言えば物価の先行き予想に関しては、黒田前総裁よりも慎重に見える発言もみられる。
既に、23年の春闘賃上げ率が相当上がっており、インフレと賃上げの好循環がようやく始まりつつある。当然この動きを認識しているのだが、「今後も好循環が持続するか」の判断を植田総裁らはより重視しているのかもしれない。米中経済が停滞して日本経済の回復が止まれば、インフレと賃上げの好循環が途絶える。2000年以降の日本銀行が何度か引締め政策に転じた後にデフレ脱却に失敗したが、この経緯を知る植田総裁は日本経済に影響する海外経済の先行きを慎重に判断しているとみられる。
「和製バーナンキ」植田総裁の政策姿勢
植田総裁の緩和修正に関する慎重な考えは、19日の講演において「金融緩和を続ける理由」などで改めて示された。筆者が注目した点は、植田総裁が、インフレ率と需給ギャップの関係性(フィリップス曲線)を使いながら、デフレ期に低下した「予想インフレ」を高める必要性に言及したことである。この考え方は、黒田前総裁らと共通している。
この考えを踏まえると、安定的な2%インフレ実現の条件として、「インフレが将来上昇する」と人々の予想が変わることが重要になる。長年デフレであったから、日本人の思考・行動様式が変わるには「ある程度の期間」のインフレが必要かもしれず、金融緩和を緩める際には慎重に判断する必要があるとの考えに至る。
著名経済学者であるサマーズ教授が、植田総裁を「和製バーナンキ」(元FRB(連邦準備理事会)議長、金融緩和でリーマンショック後の米経済停滞に対応)」になぞらえた。金融緩和を徹底したバーナンキ氏の功績・名声を意識しながら、黒田前体制の政策姿勢を植田総裁は継承しているのかもしれない。
市場の見通しは2週間余りで真逆に
4月は日本銀行への思惑で円安が進んだが、その後5月からの円安ドル高の主たる要因は、米国における金利上昇である。5月15日頃まではFRBが秋口までに利下げに転じると、市場では予想されていた。ただ、銀行問題が落ち着くなどで、そうした見方は修正された。5月24日にFOMC(公開市場委員会)メンバーで存在感が強いウォラーFRB理事が、インフレが依然高い状況を踏まえて、仮に6月の利上げを見送りでも、7月に利上げを検討する考えを述べた。
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