円安批判の肥大化と黒田総裁の発言の意味
黒田総裁のトーンダウンは、日本銀行や政府の政策転換を意味するだろうか? REUTERS/Kim Kyung-Hoon
<円安批判の声は、メディアなどで肥大化しているようにみえる。黒田総裁のトーンダウンは、日本銀行や政府の政策転換を意味するだろうか?>
為替市場において、4月13日には1ドル126円台まで円安ドル高が進み、今週19~20日にかけて2日間で大きく動き、一時は129円台まで円安が加速した。米10年金利が2.9%台まで上昇するなどの、米国の金利上昇がドル高円安を促す主要因になっている。こうした中で、125円台よりも円安が進み、20年ぶりの円安になったと日々報じられている。
円安は負の側面が注目されやすい
日本銀行による「円安をプラスである」とのスタンスは当面変わる可能性は低い点などを、筆者はこれまでのコラム等で指摘してきた。このため、FRBの利上げ前倒し姿勢の強まりがもたらす米金利上昇とともに、ドル高円安が続く可能性は十分あり得ると考えていた(ペースは予想外に早いが)。
一方で、円安が進むにつれて、円安を問題視するメディアの報道が増えている。こうした批判的な報道が市場関係者の考えに影響を及ぼしているのか、あるいは「円安はそろそろ終わり」との見方が覆されているのだろうか、長期金利を制御する金融緩和を続けて円安を容認する日本銀行に対する批判的な見方が増えているように見える。
円安は経済主体によって異なる影響を及ぼし、家計や輸入企業のコスト増という負の側面が注目されやすい。ただ、円安によって、円ベースでの企業の売上や利益が大きく増えるなどの、ポジティブな効果も強まる。インフレ率全体が十分上昇していない日本経済にとっては、金融緩和がもたらす通貨安は、経済成長やインフレ率を押し上げるプラスの効果が大きい。この日本銀行の基本的な認識は変わっていないだろう。
円安によって、家計や輸入企業のコスト増をもたらす、というネガティブな影響があるのは確かである。ただ、最近の円安進行で、ネガティブな影響が、ポジティブな効果を上回ったなどの説得力がある分析を筆者は目にしたことがない。「20年ぶりの円安」という事実だけがフォーカスされコスト増などの声が大きく報じられ、「悪い円安」との認識が強まっている側面が大きいのではないか(円安で恩恵をうける企業の声は報じられにくい)。
円安が望ましいかどうかは、その時の経済状況による
円安批判の声は、メディアなどで肥大化しているようにみえる。一つ例をあげれば、「円安依存の政策は望ましくない」との考えである。実際には、日本の金融政策運営において、通貨水準をターゲットにしていない。現在の金融政策の効果が通貨変動を通じて発揮されるにしても、金融緩和政策によって経済成長やインフレ率を適度に制御するのは、教科書どおりの経済政策であり、どこの国も使っている。「円安依存から脱却すべき」は一見もっともらしいが、妥当な考えとは言えないだろう。
結局、円安が望ましいかどうかは、その時の経済状況に依存する。金融緩和による円安によって、日本企業の価格競争力が向上したり企業利益が増えるので、家計を含めた日本全体の状況が改善する。日本は2%インフレに達していないので、日本の経済的な豊かさを高める余地はまだ残っているように思われる。メディアなどで肥大化している円安批判論の多くは、この観点を忘れているようにみえる。
18日に、黒田日銀総裁は、衆院決算行政監視委員会において、最近の円安を「かなり急速な為替変動」とした上で、「非常に大きな円安とか、急速な円安の場合はマイナスが大きくなる」と述べた。「円安が全体としてプラスという評価を変えたわけではないが、やはり過度に急激な変動は不確実性の高まりを通じて、マイナスに作用することも考慮する必要がある」と述べた。
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