コラム

コロナ後の世界経済:米中覇権争いの中での日本の存在感はどうなる?

2021年07月30日(金)15時15分

2021年後半から日本株への金融市場の受け止め方が大きく変わりうる...... Nicolas Datiche/REUTERS

<ワクチン戦略に成功して経済安定化政策を強める米国を中心とした先進諸国の優位が強まり、中国に対する経済的な封じ込めが強まった時、日本の存在感はどうなる...... >

米株式市場は7月に入っても史上最高値を更新しながら上昇が続いており、7月23日時点でS&P500は年初から17.5%の上昇率となっている。これまでの上昇ピッチが早かったので短期的な上昇余地は限られるだろう。ただ、強力な金融財政政策で経済成長が高まり企業利益が大きく伸びていることを踏まえれば、ある程度は正当化できる株価水準とみられる。

米国でも、他国同様にデルタ株の広がりによって新型コロナ感染者が7月から再び増え始め、これが懸念材料になりS&P500指数が下落する場面もあった。既に6月からワクチン接種ペースが低下しており、州別にみるとワクチン接種率が低いフロリダ州、ルイジアナ州などでの新型コロナ感染者数増加が起きている。一方で、ワクチン接種率が50%を超えている州では新型コロナ感染拡大はかなり抑制されたままである。

また、米国よりもワクチン接種が進んでいる英国では、コロナ感染者が再び増えている中で、7月に入ってから経済活動制限を緩める政策が行われた。ジョンソン政権の判断の是非はまだ不明だが、感染力が高いとされるデルタ株に対するワクチンの予防効果が大きいことを重視したと見られる。実際に、英国では感染者が増えても死者はかなり抑制されているし、増えていた感染者は7月中旬から減少に転じる兆しが見られている。

これらを踏まえると、米欧で広範囲に使われている、ファイザー社などが開発したワクチンの効果は依然として明確である。世界的に7月から広がっている感染者増加が、特に2020年半ばから高い成長率を維持してきた米国の経済活動にブレーキをかける可能性は低いだろう。

コロナ後:米欧を中心に中国に対する経済的な封じ込めが強まる

米欧で確認されつつあるワクチンの重症化抑制効果がかなり高い一方で、中国製のワクチンが普及したチリでは接種率が50%を超えても、米欧と同様な効果は明確ではない。また、ワクチン普及が遅れているインドそしてインドネシアなどの東南アジアでは7月に入ってから感染再拡大による被害が広がり、日系企業の現地工場の生産活動に悪影響を及ぼしている。(1)ワクチンを確保できる経済力、(2)採用するワクチンの効果、これらの2つが先進国と新興国の経済復調の格差をもたらしている。そして、米中間の政治的な緊張関係が続いていることがこの格差を更に広げているとみられる。

中国経済については、「崩壊不可避」を常々声高に唱える論者は多いが、筆者を含めた市場関係者の多くは彼らとは距離を置いているだろう。当局による財政金融政策は経済成長に一定程度配慮されているので、中国経済が近々大きく減速するリスクは小さいと筆者は予想している。

ただ、習近平主席はこれまでの慣例を覆して長期政権確立を目指しているとみられ、今後国内の権力闘争が顕になるリスクがある。また、株式市場では、米欧などの先進国の株価上昇率が年初から約20%近く上昇する一方、中国当局による大手IT企業や学習塾企業などへの規制強化が悪材料になり、香港、上海株が大きく下落した。香港ハンセン株指数はほぼ年初の水準まで下げている。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費

ビジネス

日産とルノー、株式の持ち合い義務10%に引き下げ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story