コラム

「トランプ現象」を掘り下げると、根深い「むき出しのアメリカ」に突き当たる

2016年03月11日(金)16時30分

トランプは「黒人」のかわりに新たな敵となる存在を見つけ出す

 さて、現在のアメリカはどうか?1960年代とは環境が一変している。学歴が低い白人男性の視点から現在の政治地図を見ると、あまりにハンデがうず高く積み上げられている。白人の人口が圧倒的多数ではなくなり、政治は非白人の有権者に媚びるようになった。男女平等で男性の特権が無化し、伝統的な「男らしさ」を軽々しく口にすればセクハラとみなされる。LGBTライツの考え方が浸透し、キリスト教的な価値観が都市部では風化していく。加えてユダヤ教、イスラム、ヒンドゥーなどの信仰にも配慮せねばならず、クリスマスのデコレーションを取りやめにするデパートも続出。肩身が狭い。

 そこに経済的なダメージも追加される。グローバル経済の浸透により、雇用が中国をはじめとした新興国へと流出。かつての工業地帯は再起不能だ。中産階級が没落し、国内の格差が拡大する。グローバル経済の中では学歴の格差が前の世代よりも拡大する。

 愛国心も打撃を受ける。アメリカの外交が複雑化したため「アメリカが一番」といった価値観が成り立たない。アメリカはもう世界の覇者ではなく、二流国へと滑り落ちていくようだ。経済的な立場が弱くなり、夢も見られず、自尊心が失墜した白人男性は最後にブチ切れる。そのブチ切れにトランプが正面から応えてくれる。「怒ってもいいんだ」と。

RTS9GYZ.jpg

Kevin Kolczynski - REUTERS

 トランプは「黒人」のかわりに新たな敵となる存在を見つけ出し、その「敵」に向かって罵倒を繰り返す。「アメリカを弱くするリベラル政治」「嘘ばかりつくメディア」「金に魂を売り渡す職業政治家たち」「自由貿易の協定でアメリカから何兆円と奪っていく中国や日本、メキシコ」「アメリカをテロ攻撃するイスラム国」「メキシコからの不法移民」「真実を語ることも許されない政治的な正しさの風潮」などなど。これらは古い歌のメロディーを新しい歌詞で歌っているようなものだ。

 そこにきめ細かい思慮はない。「アラブの春」が引き起こした動乱とアメリカのイラク戦争での失敗が「イスラム国」の誕生へと連鎖していった過程は、そっくり抜けている。アメリカに刃向かう敵をとにかく、一撃で仕留めればそれで話が済む、とトランプは吹聴する。

プロフィール

モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。国際ジャーナリストからミュージシャンまで幅広く活躍。スカパー!「Newsザップ!」、NHK総合「所さん!大変ですよ」などに出演中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story