コラム

『Four Daughters フォー・ドーターズ』はあなたのドキュメンタリー観をきっと揺さぶる

2025年03月22日(土)14時40分

これ以降、スクリーンには3人の実の家族と4人の俳優が入り代わり立ち代わり現れる。なぜゴフランとラフマは家を出たのか。なぜ狂信的な信仰に埋没していったのか。オルファとエヤとテイシールは自らを演じながら葛藤する。4人の俳優も一緒に悩む。

観ながらあなたは混乱する。この人は三女なのか。いや次女だったかな。ならば俳優だっけ。いや実際の三女だ。泣いている。演技がつらいのだろうか。監督がカメラの後ろから声をかける。つまりこれはドキュメンタリーだ。


巨匠アッバス・キアロスタミだけではなく、モフセン・マフマルバフやジャファル・パナヒなど、イランの映画監督たちはドラマとドキュメンタリーを融合させた作品を作り続けている。

表現に対する規制が厳しいイランならではと思いたくなるが、自らが自らを演じて、プロの俳優もそこに当然のように配置するイスラエルのアビ・モグラビや台湾の呉乙峰(ウー・イフォン)もこの系譜だ。

イスラエル・パレスチナ問題に切り込むモグラビの映画『ハッピー・バースデー、Mr.モグラビ』を山形国際ドキュメンタリー映画祭で観たときは、ドキュメンタリーとはこれほど自由でいいのかと衝撃を受けた。辞書的には「虚構を加えない事実記録」と定義されるドキュメンタリーだが、無理に自らをカテゴライズする必要はない。だって作品なのだ。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏に近い米上院議員が訪中、何副首相と会談

ワールド

ゼレンスキー氏、東部で司令官と会談 前線状況や米と

ワールド

ハマス、ガザ南部で政治指導者死亡と発表 イスラエル

ワールド

英ヒースロー空港再開、停電への対応調査へ 航空便の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔平が見せた「神対応」とは? 関係者に小声で確認していたのは...
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 6
    止まらぬ牛肉高騰、全米で記録的水準に接近中...今後…
  • 7
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 9
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 10
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 10
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story