映画『天上の花』に見る昭和の詩人・三好達治 愛と暴力のフォルムは、滅びゆく大日本帝国の写し絵
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<戦意高揚詩を量産した三好達治。あくまでも創作だが、この作品での、妻を愛するが故に暴力衝動を抑えられない達治のフォルムは、アジアで暴力の限りを尽くした大日本帝国の姿に重なる>
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
......中学校の教科書に載っていたから、三好達治のこの詩(「雪」)は知っていた。たった2行だけ。でも印象は強い。雪国の冬の夜。しんしんと積もる白い雪。まるで静止画のような情景が浮かぶからこそ、悠久な時の流れを感じる。そして布団の中でぐっすりと眠る子供は、昼とは異なって身じろぎひとつしないからこそ、純度の高い生のメタファーだ。
改めて読めば深い。でも三好達治が創作した他の詩を読んだことはない。そもそもよく知らない。萩原朔太郎や佐藤春夫と同時代だったことは何となく知っていたけれど、逆に言えばその程度だ。
映画『天上の花』の時代背景は昭和初期。萩原朔太郎を師と仰ぐ三好達治(東出昌大)は、朔太郎の末妹の慶子(入山法子)に恋をする。しかし貧乏であるが故に朔太郎の両親から結婚を反対され、佐藤春夫(浦沢直樹)の姪と結婚する。
真珠湾攻撃を契機に社会が戦争一色になった頃、日本の勝利や国家を賛美する戦意高揚詩を達治は量産した。熱狂した世相によって国民的な詩人へと押し上げられた達治は、再会した慶子に妻子と離縁する決意を打ち明けて求婚する。夫と3年前に死別していた慶子はこれを受け入れ、2人は越前三国の雪深い旧家で暮らし始める。
映画の縦軸は、その後の2人の日常だ。と書けば甘い純愛映画かと思いたくなるが、その予想は外れる。いやそれとも、これが純愛なのか。
慶子を必死に愛しながら、達治は激しい暴力的な衝動に身を任せる。そして清貧な生活に耐えられない都会育ちの慶子は、勝ち気で奔放であるが故に、殴られ蹴られながら達治に毒を吐く。
愛するが故に強烈な暴力衝動を抑えられず破滅してゆく達治は、やはり同時代にアジアで暴力の限りを尽くしながら破滅へと向かう大日本帝国の写し絵でもある。
映画の原作となった萩原葉子(朔太郎の娘)の小説『天上の花』にも、激しい暴力描写はもちろんある。しかし萩原自身が本書で、これはフィクションであることを明言している。つまりあくまでも創作だ。だから必要以上に史実と重ねるべきではない。
それは大前提として書くが、過剰な愛に内側からむしばまれたとはいえ、達治が振るう暴力はすさまじい。
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