映画『橋のない川』で描かれるこの国の部落差別は過去形になっていない
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<民族は同じ。言語も宗教も同じ。なのに差別は続いている──海外の学者やジャーナリストは、日本の部落差別についてどうしても分からないと首をかしげる>
1999年に発表したテレビドキュメンタリー『放送禁止歌』は、絶対的な放送禁止歌だと多くの人から思われてきた岡林信康の「手紙」を、ラストにフルコーラスで流した。なぜこの曲は放送禁止歌だと思われてきたのか。被差別部落問題をテーマにしているからだ。でも差別を助長するような内容ではない。そんな曲を岡林が作るはずはない。
なぜ差別があるのか。する側とされる側の何が違うのか。その差別の帰結として多くの人が苦しんでいる。「手紙」の中の女性は、自らの苛烈な体験を訴える。でも声高ではない。小さくて弱々しい声だ。だからこそ歌が必要なのだ。
仕事柄、海外の学者やジャーナリストと話す機会が多い。今も世界にはさまざまな差別がある。でも日本の部落差別について、どうしても分からないと彼らは首をかしげる。民族は同じ。言語も宗教も同じ。ところが差別は今も続いている。
もちろん、民族や宗教の違いを理由に差別することだって論外だが、ならば日本の部落差別の理由と根拠は何なのか。職業差別なのか。でも仕事を変えても差別されると聞いた。教えてほしい。理由は何だ──。
そう言われても分からない。キーワードは穢(けが)れと浄(きよ)め。あるいは天皇制。どちらも日本固有の概念とシステムだ。でもそれだけが、1000年以上にわたり多くの人たちを差別してきた理由にはなるとは思えない。
69 年に製作された『橋のない川』は、住井すゑが発表した同名小説が原作だ。『ひめゆりの塔』や『米』など多くの社会派ドラマを撮ってきた今井正監督はこの長編小説を読み、すぐに映画化をもくろんだ。しかし大手映画会社は企画に難色を示し、今井は自ら立ち上げた独立プロダクションで製作を開始する。
舞台は明治末期、奈良盆地にある被差別部落。日露戦争で父を亡くした小学生の誠太郎と孝二は、母と祖母と暮らしていた。地主から借りた田畑は小さい。しかも収穫のほとんどは地代として消えてしまう。稲わらの草履作りが一家の主な収入源だ。
小学校を卒業した誠太郎は村を出て大阪に奉公に行き、一家は3人となる。孝二の友達の武が空腹に耐えかねて豆を炊こうとして火事を起こすが、部落外から来た消防団は本気で消火活動をしようとしない。多くの家が焼失し、武は自殺した。
武の父親である藤作は、娘を売って手に入れた金で村の消防ポンプを買うことを決意するが、そのポンプがまた悲劇を引き起こす。藤作を演じる伊藤雄之助の存在感が圧倒的だ。祖母を演じる北林谷栄や、母を演じる長山藍子も素晴らしい。
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