『突入せよ!「あさま山荘」事件』を見て激怒、若松孝二が作った加害側の物語『実録・連合赤軍』
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ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<凄惨な事件が起きたとき、加害側の視点が置き去りにされることで被害者意識が疑似の主語となる。加害者のモンスター化が進む。「冷血で残虐」が既成事実になる。でもそれは違う>
連合赤軍によるあさま山荘事件が起きた1972年2月から50年が過ぎた。5月には、日本赤軍元最高幹部の重信房子が20年の刑を終えて出所する。いろんな意味で節目の年だ。山荘に警察が突入した2月28日、これを実況するテレビの総世帯視聴率は最高90%近くに達した。
でも本当の衝撃はその後だった。山荘に立て籠もる前、群馬県山中に築いたアジト(山岳ベース)で彼らは同志に対してリンチ殺人を行い、29人のメンバー中12人を殺害して地中に埋めていたことが発覚する。
僕はまだ子供だったけれど、あさま山荘事件に続いて山岳ベース事件が明らかになったとき、周囲に多少はあった「学生ガンバレ」的な温度が明らかに下がったことを覚えている。言葉にするなら、そこまでやるのかという衝撃と嫌悪。これ以降、日本の新左翼運動は大きく退潮する。
この事件をテーマにした映画は僕の知る限り3本だ。高橋伴明監督の『光の雨』は2001年。翌年に原田眞人監督による『突入せよ!「あさま山荘」事件』が公開され、今回取り上げる『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』を若松孝二が発表したのは08年だ。
この映画を撮るために若松は自宅を抵当に入れただけではなく、自身の別荘をあさま山荘のロケセットとして提供し、実際の山荘そのままに水浸しにして破壊した。
つまり徹底した低予算映画。リアルな緊張感を演出するために若松はキャストに山中合宿を命じ、マネジャーの帯同を禁止し、メークや衣装も自前で用意させた、などと言い伝えられている。まあそうした狙いもあったのかもしれないが、本当の理由は予算節減じゃないかな。
なぜこれほどに凄惨な事件が起きたのか。冷血で残虐な人たちがたまたま集まったのか。もちろん違う。むしろ高邁な理念を掲げた純粋な人たちだ。だからこそ暴走する。
人は集団化する生き物だ。特に集団が閉鎖的で不安や恐怖が高まったとき、個の感覚や理性は集団の論理に圧倒され、全体で同じように動く傾向が強くなる。つまり同調圧力だ。全体で同じ動きをするために号令を求め、強いリーダーに服従したいとの衝動が大きくなる。
こうして自分たちが造形したリーダーに誰も逆らえなくなり、集団は大きな過ちを犯す。連合赤軍だけではない。オウム真理教もホロコースト(ユダヤ人大虐殺)もスターリンの大粛清も文化大革命もロシアのプーチン政権も、そのメカニズムは閉ざされた集団の暴走だ。
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