勝新太郎の本領とすごさ──徒花的な『座頭市』はまるで勝新そのもの
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<70年代中頃からテレビドラマとして放送された座頭市シリーズだが、今日の地上波で再放送できるだろうか──もしも勝新の前史がなかったらかなり難しいだろう。でも、不可能ではない>
座頭市のシリーズを初めて観たのは、(例によって)僕が人生において最も多く映画を観ていた学生時代だ。もちろん名画座。1989年に勝新太郎が自身で監督したシリーズ最終作は別にして、その前の25作が公開されたときは子供だったから、リアルタイムでは観ていない。
全て徹底してエンタメだ。網走番外地シリーズや『シェーン』などの西部劇にも通じる作法だが、じっと辛抱を続ける主人公の悪への怒りが最後に炸裂するというパターンは、映画としては鉄壁の黄金律だ。市は全盲という設定だから、この展開になじみやすい。
ただしそれは当時だから思えたこと。この原稿を書くために1本目の『座頭市物語』など何本かを観返したが、(差別用語が頻出することはともかくとしても)身分制度の強かった江戸期を背景に全盲の主人公が悪人を圧倒的な力で成敗するというエッセンスが、今の世の中ではどのように解釈されるだろうと考えた。
たぶんとても微妙だ。座頭市シリーズは1970年代中頃からテレビドラマとしても放送されたが、地上波で再放送はできるだろうか。勝新が没してからは北野武と阪本順治がそれぞれの座頭市を撮り、曽利文彦は座頭を瞽女(ごぜ)に置き換えた作品を発表したが、もしも勝新の前史がなかったなら今の邦画界の状況でゼロからこの企画を成立させることはかなり難しいだろう。
補足するが、難しいとは思うが不可能ではない。でも、不可能だと思う人が多過ぎるのだ。
テレビディレクター時代の1999年、僕は『放送禁止歌』というドキュメンタリーをテレビで発表し、岡林信康が被差別部落問題を正面から歌って放送禁止歌の代表曲となっていた「手紙」をオンエアした。おそらくテレビでは史上初だ。なぜオンエアできたのか。実は放送禁止歌は存在していない。テレビ業界のほとんどの人が前提にしていたこのルールは巨大な共同幻想であり、自覚なき自主規制だった。つまり自由からの逃走。ドイツが独裁国家へと変貌する過程を考察したエーリッヒ・フロムが提唱するこの概念は、今も僕たちの日常の至る所にある。
勝新が先駆者であることは間違いない。でも意図的ではないような気がする。『放送禁止歌』を撮ったときの僕も、被差別部落問題についてしっかりとは理解していなかった。放送後によく放送できたなとテレビ業界の多くの友人や先輩から言われて、それほどのタブーだったのかと今さらのように気が付いた。同列に論じることは気が引けるが、おそらくは勝新もそのタイプだと思う。
タイトルもストーリーも奇妙だけど、甘さと苦みの配合が絶妙な『ガープの世界』 2025.01.23
ナチスへの復讐劇『手紙は憶えている』とイスラエルをめぐるジレンマ 2025.01.17
和歌山県太地町のイルカ漁を告発した映画『ザ・コーヴ』は反日なのか? 2024.12.21
統合失調症の姉と、姉を自宅に閉じ込めた両親の20年を記録した『どうすればよかったか?』 2024.12.07
偶然が重なり予想もしない展開へ......圧倒的に面白いコーエン兄弟の『ファーゴ』 2024.11.22
韓国スパイ映画『工作』のような国家の裏取引は日本にもある? 2024.10.31
無罪確定の袴田巖さんを22年取材した『拳と祈り』は1つの集大成 2024.10.19
-
外資系顧客向けシステムエンジニア/システムインテグレータ・ソフトハウス
株式会社リファルケ
- 東京都
- 年収450万円~1,260万円
- 正社員
-
転勤無し/税務マネージャー「東京」年収~1000万円「世界5大会計事務所/外資クライアントメイン/在宅勤務有」
BDO税理士法人
- 東京都
- 年収600万円~1,000万円
- 正社員
-
転勤無し/外資系クラウドシステムの既存顧客担当営業「東京/大手中堅」
株式会社コンカー
- 東京都
- 年収800万円~1,500万円
- 正社員
-
外資製薬会社向けCRMシステムの運用保守支援/最寄り駅から徒歩10分圏内/経験者優遇/データ入力業務あり/年間休日最大125日
株式会社ビーネックステクノロジーズ
- 東京都
- 月給21万2,000円~55万円
- 正社員