コラム

『ゆきゆきて、神軍』の原一男が、誰にも撮れないドキュメンタリーを発表できる訳

2021年03月23日(火)19時30分

対談の際、会場(ということはNHK職員)からは『A2』についての質問が続き、原は気分を害したのかもしれない。君は映像に美学がないとふいに言われた。さらに、なぜ原さんはオウムを撮ろうと思わなかったのかと質問されたとき、私も宗教団体の教祖や右翼のボスを撮ろうとしたことはあるんです、と原は答えた。でも結局は裏に回ると、大物のはずが金策に苦労したり給料を払えないと頭を抱えたりしていてがっかりするんです。この説明に僕は思わず、そっちのほうが面白いじゃないですか、とつぶやき、ああ君はそうだね、とあっさり受け流された。だからダメなんだと言わんばかりに。

もちろんこれは僕の視点。しかも20年近く前だ。原の記憶とは微妙に違うかもしれない。でも後輩に対してムキになる大人げない原は、当時も今も変わっていない(と思う)。だからこそ、誰も撮れない作品を原は発表できるのだ。

magmori210318hara.jpg『ゆきゆきて、神軍』(1987年)
監督/原一男
出演/奥崎謙三

<本誌2021年3月23日号掲載>

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プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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