武士道と死刑制度──『花よりもなほ』で是枝裕和が示した映画の役割
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ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<死刑制度を下支えする世相は理論よりも感情がベースになっている。『誰も知らない』と『歩いても 歩いても』に挟まれたこの時代劇はあまり話題にならなかったが、是枝の作家性を示す上でとても重要な作品だ>
2本目の映画『A2』の撮影がほぼ終わって編集作業に没頭していた2001年春、是枝裕和監督の新作映画『ディスタンス』の完成披露試写の案内が届いた。オウム真理教をテーマにした映画だとは聞いていた。カルト教団の無差別殺人に加担した5人の実行犯が事件後に教団に殺害される。その命日に遺族が集まって一夜を過ごす。自分たちは加害の側なのか被害の側なのか。是枝はあえて未完成の脚本を俳優たちに渡し、その微妙な心情を即興で演じさせる。
テレビでドキュメンタリーを撮っていた頃、是枝もよく同じ番組枠で仕事をしていた。でもその時代に話したことはない。是枝の映画デビューは1995年の『幻の光』。僕の映画デビューである『A』は1998年。この頃にも接点はない。だから、招待客が限定される特別試写に自分が呼ばれたことが少し不思議だった。見終えてロビーに出たら、多くの著名人に囲まれた是枝がいた。そのまま歩き過ぎて下へ降りるエレベーターを待っていたら、いきなり是枝が走り寄ってきて、「思いは同じです」とささやいて走り去っていった。
その5年後、是枝は『花よりもなほ』を発表する。時代劇だ。ずいぶん思い切ったなと思いながら劇場に足を運んだ。以下は是枝のウェブサイトから引用したストーリーの紹介だ──時は元禄15年。生類憐みの令が出ていた頃の泰平の世の中。青木宗左衛門(宗左)は父の仇(かたき)を討つべく江戸に出て3年。ところがこの男、剣の腕前がからきしダメなへっぴり侍だった! 愉快に暮らす長屋仲間の大騒動に巻き込まれ、赤穂浪士の仇(あだ)討ちともビミョーに絡み合い、事態は思わぬ方向へ。さて、宗左の仇討ちのゆくえやいかに?!
カンヌ国際映画祭の受賞で話題となり大ヒットした『誰も知らない』と、やはり多くの海外映画祭で賞を獲得した『歩いても 歩いても』に挟まれたこの映画は、あまり話題にならなかったように記憶している。でも是枝の作家性を示す上で、とても重要な作品だ。
死刑制度の是非を論じるとき、日本では昔から仇(あだ)討ちという文化が認められていた(だから遺族に代わって国家が仇討ちするシステムが必要だ)と主張する人は少なくない。過去の文化や習俗を存続の理由にするのなら、日本では今も男はちょんまげで女はお歯黒をつけるべき、ということになる。そもそも仇討ちは特権階級だった武士の規律であって、一般庶民に許されていたわけではない。武士道を持ち出すなら、決闘を認める騎士道があったヨーロッパでは既に死刑を廃止している......理論ではこのように反論できるけれど、死刑制度を下支えする世相は論よりも感情がベースになっている。
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