コラム

最初の作品集は「遺作集」、横尾忠則の精神世界への扉を開いた三島由紀夫の言葉

2023年04月17日(月)08時05分

04_yukio.jpg

三島邸にて(1968年)


三島との出会いは、1965年の初個展のときである。横尾の作品を高く評価した三島は、すぐに自身の雑誌連載の挿絵に起用。また、自身が演出を務める新作歌舞伎のポスターデザインや、自身をモデルに細江英公が撮影した写真集『新輯薔薇刑(しんしゅうばらけい)』の装丁とレイアウトを横尾に任せた。足の病で入院中にもかかわらず横尾が何とか完成させた後者のカバーデザインを、三島が「俺の涅槃像(ねはんぞう)」だと評価した、そのわずか数日後に三島は割腹自殺。最後の電話では、インドは死を学ぶところではなく、むしろ生を学ぶところであり、「君もそろそろインドに行く時期が来た」、もっと強くなりなさいというようなことを言われたという。

自決の謎に加え、UFOの夢や入院等も重なり、以降、横尾は禅寺で修行したり、インドにたびたび出かけるなどして、精神世界に傾倒していくことになる。そうした精神世界への深まりは、仏教やキリスト教などに関連した様々な図像、光を放ち浮遊する物体、宇宙的なヴィジョンに表れ、「見えないもの」を画面上に現出させていった。また、この頃、同様に終末的意識を反映したものだろうか、ワンダーランドやユートピアといったパラダイス的イメージも数多く描いている。

1960年代後半から70年にかけては、海外でも注目されるようになり、『ライフ」誌で紹介されたり、ポスター15点がニューヨーク近代美術館に収蔵されただけでなく、69年に開催されたパリ青年ビエンナーレの版画部門ではグランプリを受賞、72年にはニューヨーク近代美術館で個展が開催されるに至っている。1967年以降頻繁に訪れることになるニューヨークでは、ベトナム反戦運動などを背景に台頭したサイケデリックカルチャーやヒッピー思想に影響を受けるとともに、ジャスパー・ジョーンズやアンディー・ウォーホルらポップ・アーティストたちに出会う。当地では、商業デザインと現代アートの世界は明確に区別されており接点がほとんどないにもかかわらず、何故か横尾はアーティストたちと同じ画廊で知り合いになり、何かと良くしてもらったという。トム・ウェッセルマンからは、このままニューヨークにいて、大きい絵を描いて、デビューしろとまで言われたが、自分はポスターとかで勢いに乗ってきているところだったので、とても、はいとは言えなかったという。

注3:三島由紀夫「ポップコーンの心霊術――横尾忠則論」(1968年)は、写真集「私のアイドル」の序文として執筆された。『文豪怪談傑作選 三島由紀夫集 雛の宿』(ちくま文庫、2007)より引用。


横尾忠則「呪われた」 デザイナーから画家になり、80代で年間100点の作品を生む に続く。


※この記事は「ベネッセアートサイト直島」からの転載です。

miki_basn_logo200.jpg




プロフィール

三木あき子

キュレーター、ベネッセアートサイト直島インターナショナルアーティスティックディレクター。パリのパレ・ド・トーキョーのチーフ/シニア・キュレーターやヨコハマトリエンナーレのコ・ディレクターなどを歴任。90年代より、ロンドンのバービカンアートギャラリー、台北市立美術館、ソウル国立現代美術館、森美術館、横浜美術館、京都市京セラ美術館など国内外の主要美術館で、荒木経惟や村上隆、杉本博司ら日本を代表するアーティストの大規模な個展など多くの企画を手掛ける。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 2
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 7
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 7
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 8
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story