コラム

「生き残った以上は、後悔する生き方はしたくない」──宮島達男のアーティスト人生

2022年12月09日(金)10時45分
宮島達男

家プロジェクト「角屋」 宮島達男《Sea of Time '98》(写真:鈴木研一)

<LED(発光ダイオード)などの数字を用いた作品で知られるアーティスト・宮島達男。創作の基本にある「生」と「死」、「再生」のサイクルや、人間が本来もっている想像力・創造力への関心は、どのように生まれたのか>

宮島達男は、0が表示されず、1から9の数字を刻み続けるLED(発光ダイオード)のデジタルカウンターを用いた彫刻・インスタレーションや身体を使ったパフォーマンス、1945年に長崎で被爆した柿の木の苗木を世界各地で子供たちとともに植樹する「時の蘇生・柿の木プロジェクト」といった数々のシリーズ作品を展開し、世界的に活躍している。

その宮島が、1998年に直島の本村地区の古い家屋全体を使って作品化したのが、家プロジェクト「角屋」である。これは、本プロジェクトの第1号であり、ベネッセアートサイト直島における、地域の人々の営みの歴史を現代と繋げ、未来を思索する場所を作るという方向性を改めて示すとともに、地域の人々が作品制作に参加することにより、アート活動を、コミュニティや島の生活のなかに介在、融合するものへと発展させる契機になった。また、宮島にとって、同作は、それを通して直島を訪れる多くの国内外の人々に名前を憶えてもらえる、名刺のような存在になっていったという。

1980年代後半の本格的な作家デビューから一貫してシンプルで強固なコンセプトのもと、現代のテクノロジーと身体性、仏教思想などに関連させつつ、「生」と「死」、「再生」のサイクルについての思索や、人間が本来持っている想像力・創造力の活用を促し続ける宮島達男の半生を辿ってみたい。

生と死と再生の原体験

宮島達男は、1957年に大工の棟梁である父親のもと、東京都江戸川区小岩で生まれ育った。江戸川で釣りをしたり、土手で草野球をやったり、長屋の周りで缶蹴りをして遊ぶなど、彼曰く「都会の外れの下町で極めて普通の子供時代」を過ごしたという。

彼が小学生だった1960年代後半は、日本中の子供たちが、漫画『巨人の星』に熱狂した時代である。宮島も例外なく影響を受け野球に打ち込んでいたが、小学校6年生の時に身体を壊し、野球を諦めざるを得なくなる。進学した中学校でも病気のため身体は弱かったが、成績は優秀だった。漫画の影響で描き始めた絵が得意だったこともあり美術部に入部。しかし、中学校3年生の時、腎臓病を発症し長期間の入院を強いられてしまう。

入院中は、病室でずっと本を読み、病院の窓から隣の中学校の校庭で走り回る同年代の子たちを眺める日々を過ごしていた。同じ小児病棟の子供たちが一人二人と亡くなっていくのを目の当りにし、自分も死を意識したという。

しかし、宮島は奇跡的に回復へと向かう。体力も少しずつ戻り、1年遅れで入った高校では、病気がちだった中学時代の反動から、生を謳歌するかのごとく、美術部に応援団、落語研究会にも入り、また文化祭も生徒会も率先して参加するなど精力的に行動する。「生き残った以上は、後悔する生き方はしたくない、思う存分生き抜いていきたい、やりたいと思ったことは何でも挑戦する意欲に溢れていた」という。

プロフィール

三木あき子

キュレーター、ベネッセアートサイト直島インターナショナルアーティスティックディレクター。パリのパレ・ド・トーキョーのチーフ/シニア・キュレーターやヨコハマトリエンナーレのコ・ディレクターなどを歴任。90年代より、ロンドンのバービカンアートギャラリー、台北市立美術館、ソウル国立現代美術館、森美術館、横浜美術館、京都市京セラ美術館など国内外の主要美術館で、荒木経惟や村上隆、杉本博司ら日本を代表するアーティストの大規模な個展など多くの企画を手掛ける。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story