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企業不祥事がなくならない理由は「ダブルバインド・コミュニケーション」
忖度を生む「ダブルバインド・コミュケーション」
人事評価システムにおいて、遂行している業務の進捗や成果が個々人の評価に直結し、それによって昇進・昇給、降格・減給などの処遇が決まるなら、例え不正につながるような行為だとしても、成果が上がる方法を採ってしまう気持ちも分からないではない。
単に個人が「昇進・昇給のために成果を上げる」という誘惑に負けて不正に手を染めるのであれば、不正をした個人に対し、就業規則やルールに基づいた厳罰を下せばいいだけだ。やっかいなのは、上司が暗にそれを指示していた場合である。
トップが人事部に、厳罰が下るような規則やルールにするよう命じ、そのように規則が改訂され、従業員にもそのことを周知していたとしても、直属の上司や関連部署の上役が、出荷遅れやコスト増で低い人事評価になるのを嫌い、「何があっても納期を遅らせるな」「コストが上がるようなことはするな」という雰囲気を醸し出していれば、部下はそう簡単に逆らえない。
あえて口に出して指示されなかったとしても、上司の意向を忖度するのが優秀な部下と評価されることがままあるのは、世間を騒がせた公文書改ざんという世紀の不祥事がよく表している。
この、忖度さえもさせてしまうようなコミュニケーション手法を、心理学用語で「ダブルバインド・コミュニケーション」という。
ダブルバインド(double bind)とは、日本語では「二重拘束」と翻訳され、「二つの矛盾した命令を受け取った者が、その矛盾を指摘することができず、しかも応答しなければならないような状態」を示す。1950年代、英国生まれの米国の文化人類学者グレゴリー・ベイトソンが提唱したもので、もともとは統合失調症の子供を調べたことに起因している。
一方では、「コンプライアンスを徹底し、決して不正をしてはならない」と、トップが命令する。他方では、「納期は厳守しろ」「コストは上げるな」と、上司が命令する。上司も予定通りに出荷できなければ自分の立場が危うくなるので必死なのだ。
こんな矛盾する内容の圧力が日常化しているような会社など辞めてやる!と言える者は、さっさと転職していく。しかし、会社は辞めたくない、辞められないと思っている者は、精神が混乱し、苦しみ、最終的には自分の責任で不正を続けていくことを選んでしまうのだ。
「まともな会社」に生まれ変われるためにするべきこと
果たして日産の社内では、ダブルバインド・コミュケーションが日常化していたのだろうか。断言まではできないが、現に日産は、「完成検査における抜取検査の不適切な取扱いへの対応等について」(9/26)の中で、問題の背景及び原因のひとつとして、「車両製造工場において、計画通りの生産出荷が優先され、完成検査が軽視」されていたと記している。トップがカメラの前で誓った言葉よりも、納期の方が大事だと現場に感じさせる何かがあったのだ。
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