コラム

情報機関が異例の口出し、閉塞感つのる中国経済

2024年02月13日(火)17時17分

中国の都市部の失業率は下の図にみるように2021年以来5%を少し上回るあたりで推移しており、とくに上昇している様子はないが、5%という水準はやはり高いといえよう。中国ではとくに農村からの出稼ぎ労働者が景気悪化の際に解雇されやすく、景気変動の影響を受けやすいと考えられる。2023年12月時点での農村からの出稼ぎ労働者の失業率は4.3%で都市全体の平均より低いが、出稼ぎ労働者は職を失った際に失業者として都市に留まるよりも田舎に帰ってしまうことが多いと思われる。その場合には「都市部の失業者」にはカウントされない。出稼ぎ労働者の失業率4.3%を構成するのは、失業した人々のうち都市部に失業者として滞留している人たちということになるので、これは決して低い数字ではない。

都市部失業率の推移

日本のマスコミでは中国の若者の失業問題が注目されている。たしかに、図に示したように、2023年4~6月には16~24歳の若年層の失業率が20%を上回っていた。ヨーロッパでならいざ知らず、東アジアでこんなに高い失業率が記録されることはめったにないので、日本の新聞やメディアはこの数字に注目し、中には失業率の計算方法に無知な記者が「中国の若者の5人に1人が失業」と早トチリをしているケースもある(例えば、清水、2022)。

中国の大学生たちの就職状況がかんばしくないのは事実であるが、「若者の5人に1人が失業」というのはまったくの誤解である。

一般に、失業統計は、アンケート調査によって過去1週間に何時間仕事をしたかを尋ね、ゼロ時間と回答した人に対して、さらになぜ仕事をしなかったかを尋ねることで算出する。理由として就学、家事、障碍、高齢などを挙げた人は失業者とはみなさず、その間に仕事を探していた人だけが失業者とみなされる。そうして導き出した失業者数を就業者と失業者の合計で割った値が失業率である。

中国の都市部に住む16〜24歳の若年層は約9600万人であるが、このうち65%は高校、大学、その他の学校に通う学生である。つまり若者5人のうち3人強は就学しており、彼らは失業率の計算から除かれる。残る35%の若者は就業しているか、失業しているか、あるいは家事や障碍のために就業できない人たちである。仮に家事や障碍により就業できない若者をゼロと仮定した場合に、若年層失業率が20%であるということは、若年層のうち就業または失業している35%のうちの20%が失業しているということになるので、中国の都市部にいる若年層の全体からみると7%が失業者だということになる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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