コラム

2020年、世界は「中国の実力」を見せつけられた

2021年02月17日(水)17時10分

COCOAは中国の「健康コード」と違って、それをダウンロードした人自身にはほとんどメリットがない。COCOAは、感染した人と接触したことを事後的に通知するというものなので、感染を防止する役には立たないのである。

無症状ではあるが、感染者に接触したという通知が来て、念のために検査しておこうと決意し、そして首尾よくPCR検査を受けることができた場合にのみCOCOAの効果が発揮される。検査で陽性ということになれば、自分が知らず知らずのうちに周りの人や社会に感染させるのを防ぐことができ、また自分自身も発症したら早めに治療を受けられるかもしれない。

このようにCOCOAは自分が他人にうつすのを防ぐ利他的な機能のものであるため、人々にダウンロードする動機を与えづらい。実際、COCOAが公表されてからすでに8カ月経過しているにもかかわらず、ダウンロード数はまだ2507万件である(NHK Web特集「COCOA沈黙の4か月 不具合はなぜ見過ごされたか」2021年2月12日)。これは日本の人口の2割にすぎず、これでは感染拡大防止の効果は乏しい。ちなみに筆者は2020年6月からCOCOAをスマホにインストールしているが、これまでのところ何も通知は来ていない。

中国はコロナ禍を2020年4月にはほぼ抑え込んだので、経済活動を通常モードに戻し、結局2020年のGDP成長率は2.3%増と主要国のなかで唯一プラス成長を実現できた。特筆すべきは中国がこうした経済の回復を比較的低コストで実現したことである。

大盤振る舞いの日本

中国も2020年第1四半期にはコロナ禍で経済が大きな打撃を受けたため、国家の財政支出を増やし、雇用の回復に努めた。IMFによれば中国は2020年にはGDPの4.7%に相当する規模の財政出動を行った。そうした努力もあって、中国のGDP成長率は2019年の6.1%から2020年の2.3%へ、3.8ポイントの下落にとどまった。

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上の図は、世界の主要28カ国がコロナ禍に対してどれくらいの規模の財政出動(すなわち財政支出の増加または減税)を行ったかを横軸で、各国のGDP成長率が前年に比べて何ポイント下がったかを縦軸で示している。このなかで左上の角に位置する国々は経済の落ち込みが比較的軽く、財政出動も比較的小さくて済んだ国々である。中国は三角印(▲)で示している。韓国もこのグループに属し、財政出動の規模はGDP比で3.4%、GDP成長率は2019年の2.0%から2020年はマイナス1%へ3ポイントの下落にとどまった。

一方、日本の2020年度の政府予算は当初103兆円だったが、コロナ禍に対応するため3回の補正を行って予算を176兆円にまで拡大した。増やした分は全額国債で賄われるため、2020年度予算の公債依存度は6割以上になる。IMFによれば日本はGDPの15.6%にも相当する財政出動を行ったが、こうしたアクセル全開の努力にもかかわらずGDP成長率は前年の0.3%増から2020年度のマイナス4.8%へ5.1ポイント下落した。図では日本の位置を四角印(■)で示している。

ちなみに、日本と同じぐらいの規模の財政出動を行ったのはアメリカ(GDPの16.7%)、イギリス(同16.3%)、オーストラリア(同16.2%)であった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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