コラム

2020年、世界は「中国の実力」を見せつけられた

2021年02月17日(水)17時10分

各国経済の実力を反映した「真の為替レート」、すなわち購買力平価を算出する試みは世界銀行やIMFが行っている。世界銀行が計算した購買力平価によって2019年の中国のGDPを米ドルに換算すると日本の4.3倍となり、アメリカを上回って世界最大の経済大国ということになる。

実際、2020年はいろいろな意味で中国の実力を見せつけられた一年だった。武漢で原因不明の肺炎患者が報告されたのが2019年12月30日。それからわずか1週間ほどで、その原因であるウイルスが特定され、その遺伝子も解読された。

原因が解明されたことでかえってゆるみが生じ、「人から人への感染はしない」といった誤った情報が公式メディアを通じて拡散されたこともあって、武漢で感染爆発を引き起こしてしまったのは大きな失敗だった。

だが、2020年1月23日に武漢市を封鎖して以降の対策にはブレがなかった。専門の病院2棟を急ピッチで整備し、全国から医師や看護師を多数武漢市に派遣し、感染が落ち着いてくると、積極的に感染者の掘り起こしを行い、約2か月余りでウイルスを完全に抑え込んで、封鎖を解くことができた。

その後も北京市、青島市、河北省などで感染のクラスターが発生したが、発生地域からの人の出入りを制限し、その地域内では徹底した検査を行うとともに、医療資源を集中的に投入して治療と隔離を行う、という武漢と同じパターンで感染を抑え込んできた。

「健康コード」を通行証代わりに

2021年2月15日現在で累計の確診数8万9788人、累計の死者数4636人(うち湖北省が4512人)というのは、世界で最初にこの恐るべきウイルスと対峙した割には「好成績」だと言わざるを得ない。「いやその数字だってウソだ。中国の真の死者数はそれより一桁多いに違いない」と根拠なく言い張る日本のマスコミ関係者もいる。たしかに中国でも感染したが診断を受けることなく治った人は多数いただろう。診断を受けられないまま亡くなって不審死として扱われた人もいたに違いない。しかし、中国当局が「好成績」を演出するために意図的に感染者数や死者数を操作しているとは思えない。そうする動機がないからだ。

時計を2020年3月1日に戻してみよう。その日のWHOのレポートによると世界のコロナ確診数は8万7137人でうち7万9968人(92%)が中国。世界の死者数は2977人でうち2873人(97%)が中国だった。つまりこの時点では、中国は好成績どころか世界で突出して「悪成績」であった。他国にまだ感染が広まっていないので、他国に比べて被害を小さく見せようと数字を意図的に改ざんしても意味がない。急激な感染爆発のなかで統計がうまくとれない局面もあったのだろうが、4月中旬になって数え漏れがあったとして死者数が1290人積み増されたことによってその問題もクリアされた。

感染を防止するためのテクノロジーという面でも中国の実力がいかんなく発揮された。それを示すのが「健康コード」である。

中国の国民はスマホに「健康コード」と呼ばれるアプリをダウンロードすることを求められている。もし健康状態が良好であり、感染者との接触がなければスマホ上に緑色のQRコードが表示される。緑色のQRコードをかざさないと公共交通機関に乗れなかったり、職場に入れなかったりするので、健康コードは感染している可能性が低いことを証明する通行証の役割を果たす。中国では早くも2020年2月には深圳市と杭州市で導入され、その後全国に展開された。

日本の「新型コロナウイルス接触確認アプリ(通称COCOA)」は健康コードと若干似ているが、こちらの方は2020年9月末から4カ月ものあいだ不具合が放置されていたことが最近明らかになった。まさにこの期間に感染が急拡大し、緊急事態宣言が出されたが、アプリが作動していないことに政府は気づかなかった。つまり、日本政府はこのアプリが無用の長物だったことを自ら証明してしまった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

国内企業物価、11月は前年比2.7%上昇 農林水産

ビジネス

米NEC委員長「利下げの余地十分」、次期FRB議長

ワールド

ボルソナロ氏長男、26年大統領選出馬を確認 決断「

ビジネス

米NEC委員長「利下げの余地十分」、次期FRB議長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story