QRコードの普及と「おサイフケータイ」の末路
ただ、アップルだけは「おサイフケータイ」に対応することを拒否しつづけた。少数のユーザーしか使っていないサービスに対応するためにわざわざ端末のコストを高めるようなものを搭載しないというのは合理的な経営判断である。アップルは圧倒的なブランド力によって、ドコモなど日本の携帯電話事業者に対して交渉力があったため、要求を拒否することができたのである。
だが、そのアップルも2016年発売のiPhone7に至ってついにFeliCa SEというチップを搭載するようになり、iPhone7ではSuicaなどを使えるようになった(「Appleが折れてまでApplePayにSuicaを例外対応させた理由」『ピピッとチョイス』2016年11月25日)。それはアップルが日本におけるiPhoneの高いシェアを維持するために、他社のスマホに対する劣位をなくしておこうとしたからであろう。
しかし、これをきっかけにFeliCaが世界に羽ばたいていく(石川温「Suica対応のiPhone 7:ソニーのFeliCaを世界に羽ばたかせるか」nippon.com, 2016年9月23日)との期待も空しく、日本におけるスマホ・マネーの利用はその後も低調である。たしかに、iPhoneにSuicaを入れて改札を通過するのに使っている人を時折見るようになったが、商店でスマホを使って代金を支払っている人をみることは皆無である。昨年時点で、北京のセブンイレブンでは65%の客がスマホで支払いをしていたのとは好対照である。
日本人の現金好きは関係ない
日本では中国よりも10年も早く携帯電話でお金の支払いができるようにしたのに、今や中国の方がスマホ・マネーがずっと普及しているのはなぜなのだろうか。
それは日本人が現金を好んでいるからというよりも、「おサイフケータイ」という仕組自体に原因がある。その最大の難点、それは商店など代金を受け取る側が、FeliCaの情報を読みとる端末を備えなければならないという点だ。業界に詳しい友人によればこの端末は1台3万円ぐらいするという。大した金額ではないと思うかもしれないが、現実にはこの端末が備え付けられているのは各コンビニチェーン、JR、地下鉄、バスなどの交通機関、空港のなかのお店、一部の自動販売機と一部のタクシーぐらいにとどまる。1台3万円であってもレジスターごとにこの端末をつけるコストは馬鹿にならないということであろう。
QRコードを使った支払いサービスが優れているのは、商店のレジスターに商品のQRコードを読み取るスキャナがもともと備わっていることが多いから、それを使えばすぐにでもQRコードを使ったスマホ・マネーによる支払いを受けることができることである。中国のスマホ・マネーの場合、商品を買う側のスマホにバーコードとQRコードを表示して店の端末で読み取ってもらうという使い方以外に、商店に掲げられたQRコードを客がスマホのカメラで読み込んで支払うという方式もある。後者の場合、商店の側にはレジスターさえ備える必要がなく、ただQRコードを印刷したステッカーを店先に置いておくだけで代金を受け取ることができる。QRコードを利用したスマホ・マネーの仕組みを日本でいちはやく導入したOrigamiもこの仕組みを使っている。
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