コラム

QRコードの普及と「おサイフケータイ」の末路

2018年02月08日(木)17時30分

これまで読み取り端末のコストという障害に阻まれて普及に限界があった日本のスマホ・マネーは、QRコードを利用する路線に転換することで普及の拡大が期待できる。ただ、仮にQRコードを使ったスマホ・マネーが日本でも普及するとすれば、「おサイフケータイ」はどうなるのだろうか。

おそらく「おサイフケータイ」は徐々にフェードアウトしていくだろう。スマホを改札で使っている人もいるのですぐにはやめられない。ただ、FeliCaにSuicaを読み込むのではなく、単にスマホのケースにSuicaカードを入れ、ケースごと改札機にかざして通過している人もけっこういる。結局、「おサイフケータイ」にSuicaしか入れていないのであれば、スマホケースにSuicaを挟んでおくのと実質的に変わらない。利用者が伸び悩めば、携帯電話事業者が端末メーカーにFeliCaの搭載を要求することも難しくなるだろう。

ヨーロッパに比べて切符が不便な新幹線

QRコードを含む二次元バーコードは世界のいろいろなところで使われている。例えば飛行機の搭乗券。ヨーロッパ域内を移動する時はLCCを利用することが多いが、LCCの場合、飛行場に着く前に予めチェックインを済ませ、二次元バーコードの入った搭乗券を印刷するか、スマホの画面に二次元バーコードを映し出しておいて持っていくことを求められることがある。日本のANAやJALの場合、QRコードを使った搭乗券、またはFeliCaを搭載したカードや携帯電話のいずれでも改札を通過できるよう、改札機には両方対応できる機械が使われている。おそらくFeliCaを推進している企業との付き合いもあってそうしたのだろうが、QRコードに一本化しても利用者の利便性は大して損なわれないはずである。

また、ヨーロッパの列車は、国外からでも事前にインターネットを通じて切符を購入し、二次元バーコードの入ったチケットを印刷して乗車する当日に駅に持って行けばそのまま乗車できる。こうした利便性は残念ながら日本の新幹線にはない。新幹線の切符は依然として磁気面のある紙の切符で、駅に行かないと手に入れられない。ようやく2017年9月から東海道新幹線で紙の切符を使わずにSuicaなど交通系ICカードでも乗車できるスマートEXというサービスが始まった。だが、外国から来る人の多くは交通系ICカードを持っていないだろうから、このサービスの恩恵に浴することができない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、AI関連株が押し上げ 全般は手掛か

ワールド

韓国GDP、第3四半期は前期比+1.3% 速報値か

ビジネス

円安、家計の購買力低下させる可能性 産業空洞化解消

ビジネス

午後3時のドルは155円半ばでもみ合い、日米金融政
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 10
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story