コラム

映画『グレートウォール』を作った中国のコンテンツ帝国が崩壊の危機

2017年08月17日(木)14時30分

楽視網のEVコンセプトカーを発表する賈躍亭(2016年4月、北京) Damir Sagolj-REUTERS

<楽視網の創業者で中国のジョブズとも呼ばれた賈躍亭は、スマホ事業やテレビ事業の失敗で会社に巨額の損失を負わせた挙句、電気自動車を作ると渡米。無責任だと中国で非難轟々だ>

今年7月6日、中国のコンテンツ配信大手、楽視網(LeTV)は創業者で取締役会長の賈躍亭がすべての役職から退いたと発表した。楽視網は事業が中国国内にほぼ限定されているため日本では余り知られていないが、コンテンツ配信、テレビやスマホなどのハードウェア、映画などのコンテンツ制作、さらには電気自動車の開発まで手を広げる企業グループで、1974年生まれの賈躍亭が2004年に創業して10数年で築き上げた。グループ全体で株式の発行や銀行からの借金などで集めたカネは700億元(1兆1500億円)以上とされる。その大帝国がいま膨大な債務を抱えて崩壊の危機にある。

【参考記事】アリババ帝国は中国をどう変えるのか?

スマホ事業でシャオミと激突

楽視網に融資していた招商銀行は借金の返済が滞っているとして賈躍亭夫妻の財産を差し押さえた。楽視網では従業員への給料が支払われなくなり、部品・資材のサプライヤーや広告会社が代金取り立てに押しかけている。実質的に経営はもう破綻しているが、破産すれば影響はきわめて大きいとみられるため、果たしてどのように処理されるのか注目される。

中国ではインターネットを通じた映像コンテンツ配信が2006年ぐらいから盛んになり、優酷(Youku)、土豆(tudou)、愛奇芸(QIY)といったサイトが人気を集めている。中国国民は党の指導と検閲に縛られて面白みのないテレビよりもインターネット配信を好むようになり、私が以前取材したアニメ制作会社のなかには検閲が煩わしいテレビを避けて、インターネットでの「放送」のみで作品を公開するところもあった。

【参考記事】第四次アニメブームに沸く日本、ネット配信と「中国」が牽引

こうしたインターネット配信の多くは無料、または一部だけ有料であり、広告で収益を得るビジネスモデルだが、そうしたなかで楽視網は中央電視台(CCTV)や映画会社とタイアップしてオリジナルの作品を作り、有料で配信する戦略を採った。

楽視網は2010年に深セン証券取引所に株を上場し、2011年にはセットトップボックス、2012年にはテレビなどハードウェアの製造・販売にも乗り出した。楽視網が世間の注目を浴びるようになったのは2014年末にスマホの製造・販売への進出を発表してからである。

楽視網の創業者・賈躍亭は、当時低価格のスマホで一世を風靡していたシャオミ(小米)を激しくライバル視し、「シャオミのスマホは利潤ゼロと言っているがそれはウソ。当社は本当にコスト割れの価格を設定した」と宣伝し、1台1500元(2万4000円)を切る低価格スマホを売り出した(『21世紀経済報道』2015年4月17日)。

【参考記事】「テック界の無印良品」シャオミは何がすごいのか

スマホをコスト以下で売れるのは、楽視網はもともとコンテンツ配信チャンネルの会費収入とコンテンツの広告収入で成り立つビジネスモデルだからだというのである。一方、シャオミも優酷、土豆、愛奇芸と提携してサービスで収益を得る方向への転換を目指していた。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story