中国は景気刺激のアクセルを踏むのか踏まないのか
GDP目標が高いと疼き出す「投資飢餓症」
しかし、中国では地方政府と国有企業は常に投資飢餓症(大きな投資がしたいとウズウズしている状態)の状態にあり、かつ大きな資金を動かしうるので、高い目標を掲げてしまうとたちまち投資過熱が起きて大変なことになります。みんなが「超過達成」を喜べるような控え目な目標が望ましいのです。
前ページの表で注目していただきたいのは、例えば2008年の実績が9.6%であるとすると、翌2009年の目標は必ず前年の実績よりも低く設定されていることです。つまり、その時期の趨勢よりも少し控えめな目標を設定するのが普通でした。この慣例に従えば2016年の目標は6.5%とするのが妥当だと思われます。
実際、昨年秋以降に中国内外の大学やシンクタンクが発表した経済予測でも2016年の経済成長率を6%台と予想するものばかりでした。まず、2015年9月に中国社会科学院経済学部が発表したレポートでは2016~2020年の平均成長率は6%と予測されています。10月に国際通貨基金(IMF)は2016年の成長率を6.3%とする予測を発表しました。さらに、中国人民大学の研究チームは6.6%、ムーディーズは6.3%と予測しています。
また清華大学の李稲葵教授は第13次5か年計画の最初の2年間は厳しい構造調整の時期で、景気はさらに低下し、2017年に底を打つだろう、予測しています(『21世紀経済報道』2015年12月2日、『経済参考報』2016年3月4日)。5年間の平均の目標が6.5%だとすれば、最初の2年間はそれを割り込むことを覚悟すべきだということです。
住宅、鉄鋼、石炭なとの過剰設備対策を優先
そうした議論の流れを受けて、昨年12月に開かれた中央経済工作会議で、中国の指導部は次年度の経済政策の重点を「サプライサイド(供給側)の構造改革」と定めました。これは、成長率の低下を我慢してでも住宅、鉄鋼、石炭、セメントなどの供給能力過剰の問題を解決するという意味です。国務院発展研究センターの副主任だった劉世錦氏の解説によれば、もしいま需要を刺激する方策をとってしまうと過剰能力の解消が遠のいてしまうので、成長率が急落でもしないかぎり、財政出動などの需要刺激策は控えるべきだとのことです。
【参考記事】鉄鋼のたたき売りに見る中国の危ない改革先延ばし体質
ところが、年末から年初にかけて人民元の対米ドル相場が急落し、株価が急落したりしたあたりから、指導部のなかで果たして「サプライサイドの構造改革」一本槍でいいのかという疑念が生じてきたようです。
さらに今年1月末に各地方のGDP成長率が発表されると、遼寧省が3.0%、山西省が3.1%と、非常に低い数字を出してきました。地方は盛った数字を出してくるのが通例であるところ、目標の半分にも届かないような低い数字を出してくるのは、苦しい経済状況にあることを中央にアピールして、あわよくばその対策のための資金を獲得しようという意図があったのだと思います。実際、中央政府は石炭と鉄鋼の生産能力削減に伴う余剰人員対策として今年から毎年1000億元の資金を出すことを決めましたが、遼寧省と山西省はその受益者になることでしょう。
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