中国は景気刺激のアクセルを踏むのか踏まないのか
成長率目標6.5~7.0%には、中国指導部の迷いが表れている(3月5日に幕を開けた全人代) Damir Sagolj-REUTERS
目下、中国で全国人民代表大会(全人代)が開かれています。今年は第13次5か年計画(2016年~2020年)の最初の年ですから、この大会で今年の方針だけでなく、今後5年間の方針も決めます。3月5日には李克強首相が政府活動報告を行い、今年の経済成長率の目標を「6.5~7.0%」と定めると発表しました。一方、5カ年計画の方では5年間の平均の経済成長率の目標を「6.5%以上」とする見込みです。
まず後者について述べますと、6.5%以上という目標値は習近平指導部が定めた「2020年の国内総生産(GDP)、都市と農村の一人あたり収入を2010年の2倍にする」という目標に沿っています。GDPを10年間で2倍にするには年平均7.2%の成長が必要ですが、最初の5年間はおおむねそれを上回るペースで成長したので、あとの5年間は年平均6.54%で成長すれば目標を達成できるのです。
景気刺激が先か、構造改革が先か
それならば5か年計画の最初の年である2016年も6.5%とすればよさそうなものなのになぜ「6.5~7.0%」としたのか? それは中国の指導部のなかで、今年は景気のさらなる減速を我慢してでも過剰生産能力や過剰債務の整理を徹底すべきなのか、それとも経済の減速を深刻にとらえて、より積極的な景気対策を打ち出すのかという2つの方針の間での迷い、あるいは意見対立があったからだと思います。「6.5%」は前者の方針、「7.0%」は後者の方針を代表しています。
でも果たして「6.5%」と「7.0%」の間にそんなに大きな違いがあるのか、と思う人も多いでしょう。私も本当は大して違わないと思います。しかし、昨年から中国のGDP統計は0.1%刻みの動きによって景気の良し悪しを表現するようになりました。2015年は目標が「7%前後」で実績は6.9%ですから十分に目標が達成されたと評価してもいいところですが、中国国内でも海外でも中国経済の「減速」が意識されています。
前にこのコラムで論じたように、本当の成長率がこれより低かったから減速感が強いのだと思いますが、本当の数字がいくつであれ、今の中国の公式統計では目標値を0.1%ポイント下回っただけでも何か重大な問題が起きていると思われてしまうほど微妙な動きになっているのです。
だから「6.5%」と「7.0%」では大違いなのです。6.5%だと去年よりいっそう景気が悪くなることを覚悟するということだし、7.0%だと去年より景気を良くするために景気刺激策をとるのではないかという期待が生じます。
ここで2008年以来の毎年3月の全国人民代表大会で打ち出されたその年のGDP成長率の目標と実績とを眺めてみましょう。
目標 実績
2008年 8%前後 9.6%
2009年 8%前後 9.2%
2010年 8%前後 10.6%
2011年 8%前後 9.5%
2012年 7.5% 7.7%
2013年 7.5%前後 7.7%
2014年 7.5%前後 7.3%
2015年 7%前後 6.9%
2016年 6.5-7.0% ?
まず2008年から2011年までは目標はずっと「8%前後」で、実績がそれをかなり上回っていました。この頃は、中国経済が過熱しがちなのを抑えるのが目標値の役割だったことがうかがえます。日本では安倍政権がGDP600兆円という目標をぶち上げましたが、日本では政府が到底実現できそうもない高い目標を出したからといってそれを真に受けて投資に走る企業もいませんから政府が過大な目標を打ち出してもそれほど害にはなりません。
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