コラム

テンセントの「ミニプログラム」がアップルの「アップストア」と全く異なる理由

2019年05月07日(火)17時35分

このような状況の中、中国人のコミュニケーションの中心に位置するウィーチャットのプラットフォームが開放されたことで、アプリ開発者はこぞってミニプログラムに参入しています。結果、商用のミニプログラムの開発者は開始後2年で150万人を上回り、2017年の1年間で104万人の雇用を生み出したという、市場調査会社iiメディアリサーチの調査報告もあるほどです(日経クロストレンド「テンセントのミニプログラム、開始後2年で開発者150万人」2019年1月 16 日)。

従来のスマホアプリと比較した場合、ミニプログラムは専用ストアがないのが特徴です。ユーザーが利用したいアプリを入手する主な方法の1つはQRコードのスキャンであり、レストランのアプリや小売りのアプリなど、リアル店舗のサービスと結びついているアプリが数多くあります。ミニプログラムはオンラインのビジネスだけでなくレストランや小売りのようなオフラインのビジネスも取り込み、「新小売」の世界にも影響を及ぼしつつあると考えられるでしょう。

MAU(マンスリー・アクティブ・ユーザー)数はサービス提供開始から順調に伸びており、2018年に入ってからは急増して4億人を超えるといいます。もっとも多く利用されているのはモバイルゲームで、ほかに生活関連サービス、モバイルショッピング、旅行関連サービス、ツール、金融関連サービスなどでも利用されているという調査報告があります(「QuestMobile Truth 中国モバイルインターネットデータベース2018年3月」参照)。

アップストアやグーグルプレイの概念に取って代わる、新たな概念といえるミニプログラムはその経済圏を拡大させており、アント・フィナンシャルやバイドゥなどの企業も同様のコンセプトのサービスを投入し追随しています。

テンセントの強みは、ウィーチャットを 10 億人が利用していることです。このコミュニケー ションプラットフォームを活用し、ユーザーの囲い込みをし、より幅広いサービスにおいてプラットフォームの覇権を握ろうというのがテンセントの戦略ではないかと考えられます。

使用頻度と顧客接点が勝者の条件

コミュニケーションアプリを押さえていることの強みははかりしれません。それは、コミュニケーションアプリは1日に何度も繰り返し使うものであり、それゆえに顧客接点が強くなるからです。日本ではコミュニケーションアプリではLINEがもっとも普及していますが、LINEを使っている方なら1日にLINEの画面をどれくらいの頻度で見ているか、LINEに割いている時間を考えてみてください。おそらく、スマホアプリの中でも親密度はもっとも高いレベルにあるでしょう。アマゾンやアリババのECを頻繁に使う人であっても、コミュニケーションアプリほどの利用頻度ではないはずです。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story