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イスラエルはいかにして世界屈指の技術大国になったか
イスラエルの中長期的な目標であるビジョンは、上記のミッションを実現していくためにも、様々な点において強靭な国家を創っていくことに置かれている。ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が指摘しているハードパワー、ソフトパワー、スマートパワーの全てにおいて国力を高めていこうとしているのが現在のイスラエルである。
なお、冒頭で「多様性をもつイスラエル」と述べたが、例えば米国のリサーチ機関であるPew Research Centerの2016年調査によれば、国民の19%がユダヤ教以外を信仰しているという結果であった。ユダヤ教:81%のなかでも、Haredi超正統派:8%、Dati宗教的:10%、Masorti伝統派:23%、Hilonl世俗派:40%となっている。
すなわち、戒律の厳しいユダヤ教の国というイメージに反して、宗教ひとつとっても自由で多様性があり、イスラエル国民の40%までもがユダヤ教のなかでも世俗派に分類されているのだ。
こうした多様性を維持していくために不可欠な最低限の共通項としての価値観がバリューであり、イスラエルはそこに強いこだわりをもっている。普段は違う価値観をもった国民であるが、イスラエル存亡の危機といった状況においては一致団結する強い使命感が共有されている。
「小国」で天然資源にも乏しいという厳しい環境のなかで、創造力こそが生命線であるというのも共通の価値観だ。イスラエルでは「0から1」という表現を好んで使うことが多いが、これは自らが「0から1」を生み出す創造力に秀でていると自負していることが理由である。
さらには、離散と迫害という長年の歴史のなかで、「今日が人生の最期の1日」と思って1日を精一杯生きるという人生観や死生観も、イスラエルに住む多くのユダヤ人が共有している価値観である。
イスラエルの国家戦略には、先のグランドデザインで述べたように、ハイテク技術に優れた国づくりを行うこと、そしてハードパワー、ソフトパワー、スマートパワーの全てにおいて国力を高めていくことなどが指摘できる。この国家戦略は以下に述べる「天の時」=タイミング戦略においても、「地の利」=国の比較優位においても、合理性の高いものであると評価される。
【天】外部環境の変化を予測したタイミング戦略
「天」とは、「天の時」という表現に示されるように、外部環境の中長期的な変化を競合に先んじて予測し、壮大なグランドデザインから計画的に大きな目標を実現していくためのタイミング戦略である。
イスラエルは、政治・宗教・信条等が異なる国々に取り囲まれているという厳しい環境のなかで、軍事技術を最先端にまで高める必要に迫られてきた。
そのなかでも軍事技術の基軸が地上や空中からサイバー領域にまで広がっていくことを他国に先行して予測し、サイバーセキュリティーの分野では米国をも凌駕するポジションを確保している。また、この分野以外においてもイスラエルの軍事技術は多岐に及ぶ領域において高水準を誇っている。
イスラエルでは男女ともに18歳から兵役義務があり、兵役を経験する国民の全てがその時点における最先端の軍事技術に触れることになるのが大きな強みとなっている。
小学校の段階から全ての国民にプログラミング教育を義務付けているイスラエルでは、特に優秀な理工系の学生が、国から選抜されて入隊する8200部隊と呼ばれる軍の研究開発部門に配属され、最先端の軍事技術の中核を担う。さらにイスラエルでは軍事技術の民間転用を促進していることから、8200部隊出身者を始めとして多くの若者が起業し、スタートアップ大国の隆盛を担っているという流れも確立されている。
つまりは、イスラエルではAI、IoT、自動運転、サイバーセキュリティーが「メガテック」の中核となることを見越し、そこに「天の時」が到来することを予測して国のグランドデザインを描き、戦略的に当該分野での競争力を高めてきたのである。
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