コラム

日本でコストコが成功し、カルフールが失敗した理由

2017年02月21日(火)11時34分

すなわち、カルフールは、自社が得意としてきた最適な「商品の品揃構造×商品の調達構造」構築に日本では失敗し、消費者に対して低価格で商品を提供する事業構造と収益構造を作り上げることができなかったのだ。

ハイパーマーケットであるカルフールの収益構造上の成功モデルは、売上を100としたとき、売上原価率を75~80%程度におさえて20~25%程度の粗利益率を確保、販売管理費率を20%程度におさえて5%程度の営業利益率を確保するというものだ。

この成功モデルに対して、日本進出後のカルフールは、メーカーとの直接取引が実現できず売上原価が高止まりする一方で、進出後に余分に必要となる販売管理費も重くのしかかり、営業赤字から脱却できなかったものと推測される。

コンビニ並みアイテム数のコストコが成功した要因

それでは、コストコの「商品の品揃構造×商品調達構造」はどのようになっているのであろうか。

コストコのアイテム数は、ハイパーマーケットであるカルフールの7万点に対して4000点となっている。

コンビ二並みに絞られたアイテム数に対して、コストコはその4割を海外からの輸入という独自のサプライチェーンでまかなっている。

そして、コストコは国内で徐々に力をつけていくなかでメーカーとの直接取引も増やし、商品の調達構造においても万全の体制を構築している。

またカルフールが日本進出当初に「競争」や「脅威」と受け止められたのに対して、コストコは当初から「協調」や「棲み分け」であることを強調、メーカーや進出先の地域での信頼を獲得していったことも見逃せない点だろう。

実際にも、4000点に絞られた商品展開によって、地域の商業とは相乗効果が生まれたこと、通常商品とは違うサイズの商品展開を行うことでメーカーとの間でもWin-Winの関係が構築されたことを指摘しておきたい。

さらには、コストコはそもそもが会員制ホールセラーという業態をとっており、その収益構造においては売上対比で2~3%相当の会費収入があることも、進出当初には競合他社比で有利に働いたことは確実だ。

現地国調達を主体とするカルフールが日本進出に際してメーカーとの直接取引に失敗し事業構造と収益構造の両面において競争力を欠いたまま事業展開を強いられたなかで、コストコは日本進出当初から自社ルートでの商品調達と会費収入が収益構造を大きく下支えしたわけだ。

なお、コストコにおいては、4000点にまで絞り込んだ品揃えをきちんと「変化」させているのも見逃せない点だろう。同社では、常にカテゴリー毎の売上目標と結果を見て月に200から300品目を入れ替えており、季節ごとの商品入れ替えにも熱心である。

売れ筋商品をきちんと管理し、死に筋商品は1カ月単位で売り場からはずしていくという商品管理が、魅力的な売り場つくりと数は少ないながらも魅力的な品揃えに貢献しているのだ。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

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