コラム

防犯効果を高める「ホットスポット・パトロール」とは? 日本の「ランダム・パトロール」との違い

2025年02月07日(金)11時10分

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シカゴ警察のホットスポット・パトロールに同行した筆者 筆者撮影

ではなぜ日本では未だにランダム・パトロールが根強く支持されているのだろうか。その一因として、1996年に警視庁が実施した空き巣犯35人へのインタビュー結果が挙げられる。この調査では、「近所の人に声をかけられたり、見られたりしたことで犯行を諦めた」という回答が多かった。この結果がメディアを通じて広まり、パトロール中に犯罪者に遭遇すれば犯罪が未然に防げるという常識が定着したのである。

しかし、この調査には大きな落とし穴がある。対象となったのは、捕まった空き巣犯だけである。つまり、成功する犯罪者の行動パターンについては反映されていない。実際に300件以上の空き巣を繰り返した犯人は「インターホンで留守を確認し、怪しまれない方法を工夫した」と述べている。また、高級住宅地で200件以上の空き巣を行った犯人も「ブランド品の帽子を被り、散歩を装って下見を行った」と証言している。これらの事例から、レベルの高い犯罪者は顔を見られる程度では犯行を諦めないことが分かる。

犯罪機会論の観点から見れば、重要なのは(だれもが/犯人も)「入りやすい場所」と(だれからも/犯行が)「見えにくい場所」である。そこがホットスポットだ。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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