コラム

日本に「パワハラ」や「クレイマー」がはびこる理由

2024年10月15日(火)21時10分

もっとも、「甘え」の暴発がバーチャルな世界に限定されていれば、問題はまだ小さい。しかし、バーチャルな世界とリアルな世界の境界が曖昧になった現在では、「甘え」がリアルな世界に侵攻してくる。それは、リアルの世界での「甘え」と「義理」のバランスの崩壊なので、「甘え」だけが突出する結果になる。

一方、「義理」については、「古臭い」「人権侵害」「老害」「忖度」などと、蔑視する傾向が強いので、「甘え」と「義理」のバランスは崩れる一方だ。

近時、問題にされる「パワハラ」や「クレイマー」も「甘え」に起因している。「ストレスやフラストレーションを解消するためなら、他人を攻撃してもいい」という発想は、「甘え」以外の何物でもない。

「バランス」は「正しさ」の処方箋

もっとも、実際には、この種の「甘え」は「正義」という形で発現することが多い。「社会の正義」「地域の正義」「会社の正義」などだ。しかし、それらの「正義」は、「甘え」をカムフラージュしているにすぎない。

言うまでもないが、「正義」は西洋人が大好きな言葉である。英語に由来する日本語の刑事司法(criminal justice)も、もともとは「刑事上の正義」の意味だ。そこで、イギリスの専門家に「正義とは何か?」と聞いてみた。答えは一言、「公平」だった。正義の中身は「バランス」ということだ。

どこでも「バランス」がキーワードになるらしい。「権利と義務」「甘えと義理」「ギブ・アンド・テイク」そして「正義」。とすれば、「バランス」は社会の正義だけでなく、個人の正義にとっても重要なはずだ。

偏った正義を振りかざす「甘え」を発現しないためには、ストレスやフラストレーションを「正しく」解消する必要がある。その「正しさ」の処方箋が「バランス」なのである。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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