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長崎男児殺害事件から20年──誘拐現場、殺害現場はどちらも「入りやすく見えにくい場所」だった
不特定多数の人が集まる場所は、心理的に「入りやすく見えにくい場所」といえる(2019年9月、長崎) Zeestudio-shutterstock
<当時中学1年の少年が、家電量販店から連れ出した幼稚園児を立体駐車場の屋上から突き落として殺害した事件について、「犯罪機会論」の視点から分析する>
4歳の幼稚園児が連れ去られ、殺害された長崎男児殺害事件から7月1日で20年になる。この事件を「犯罪機会論」の視点から分析してみると、多くの教訓を導き出すことができる。
事件を分析する前提として、犯罪機会論を整理しておきたい。
犯罪機会論とは、犯罪の機会を与えないことによって、犯罪を未然に防止しようとする犯罪学の立場である。そこでは、犯罪の動機を持った人がいても、その人の目の前に、犯罪が成功しそうな状況、つまり、犯罪の機会がなければ犯罪は実行されないと考える。このアプローチが防犯の国際標準だが、日本では普及が進んでいない。
犯罪機会論によると、犯罪が起きやすいのは、「入りやすい場所」と「見えにくい場所」だ。そうした場所を見抜く能力が「景色解読力」で、それを伸ばすのが「地域安全マップづくり」である。
周囲の無関心は、結果であって原因ではない
こうした視点から長崎男児殺害事件を見ると、まず、誘拐現場が心理的に「入りやすく見えにくい場所」だったことが分かる。この事件では、中学1年の男子生徒が、買い物客でにぎわう家電量販店のゲーム体験コーナーで男児に声をかけ、そこから男児を連れ出した。その後、一緒に路面電車に乗ったり、繁華街を歩いたりして、男児を殺害現場の立体駐車場まで連れて行く。
このように、多数の人が集まる場所で、制服姿の中学生によって幼稚園児が連れ去られ、多数の人が行き来する場所を二人で通過していたにもかかわらず、事件当初、誘拐に関する目撃情報はほとんど寄せられなかった。
この点、西日本新聞は、「県都の繁華街の雑踏は思った以上に他人の行動に関心を示さない。二人を見つめていたのは、防犯ビデオカメラだけだったのか」「『今のところ有力な目撃情報はない』(捜査本部)とされ、"都会の死角"を、印象づけている」と報じている。朝日新聞も、「当時、店内は会社帰りのサラリーマンや中高生でにぎわっていたというが、有力な目撃情報は寄せられていない」と報道している。
確かに、周囲が無関心だったかもしれないが、それは結果であって原因ではない。なぜなら、それこそが心理的に「入りやすく見えにくい場所」の作用だからだ。
人が多い場所では、そこにいる人の注意や関心が分散し、視線のピントがぼけてしまう。そのため、犯罪者の行動が見過ごされやすくなる。人が大勢いても、それが特定多数であれば見過ごす可能性は低いが、不特定多数なら見過ごす可能性は高いのだ。
こうした場所では、親は「誰かがうちの子を見てくれている」と思いがちになる。しかし実際は、誰も「うちの子」を見てはいない。「うちの子」にスポットライトを当てるのは親だけだ。
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