コラム

【英ブレグジット】メイ首相が辞任しても離脱の難題は変わらず 新首相に求められることは

2019年05月27日(月)13時05分

それよりもっと筆者が懸念を覚えるのは、(1)、つまり、「EUと再交渉し、英国により優位な条件を引き出す」という「夢想」である。再三、EUは「再交渉はしない」と言っている。

(1)を主張する離脱強硬派の政治家は、「再交渉をしないと言っていても、EUは折れる」と主張している。「最後には、EUは折れる。英国はそれほど重要な国なのだから・・・」、と。

英国人にしてみれば、こうした言葉は耳に心地よく響く。(2)の「合意なき離脱でも、大丈夫」も、そうだ。

しかし、本当に(1)が実現できるのか?あるいは、本当に「合意なき離脱でも、大丈夫」なのか?耳に心地よい表現に、ついつい惑わされることになるのではないか。

新首相に求められることは

新首相は、これも太字で書くが、「残留を選んだ国民に、何を提供できるのか」を示す必要があるだろう

メイ首相は、離脱派の国民、特に保守党内の離脱派・離脱強硬派の方を向いた政策を推し進めてきた。

「(英国にとって)良い合意でなければ、合意なしでも離脱する」と繰り返したものだ。もともとは残留派の自分が「離脱を実現させる」覚悟を示すために、こんなことを言ったのかもしれない。

しかし、メイ首相の後の首相は、離脱派の国民も残留派の国民もブレグジットで生活が好転するような将来図を描く必要がある。離脱派の国民だけを見ているような姿勢は許されないだろう。

離脱派運動を主導した一人、ナイジェル・ファラージが「離脱党」を結成し、23日の欧州議会選挙では彼の政党が第1党になる(英国に割り当てられた議席の中で最大数を取得)と見られている。

離脱党に対抗するには、保守党の新党首・首相はより強硬な離脱路線をアピールする必要が出てきそうだ。保守党の右傾化だ。

しかし、そうなってしまえば、さらに国民を分断させるような気がしてならない。残留派の国民はどこへ行けばいいのか。

メイ首相が達成できなかった、「離脱派も残留派も幸せに暮らせる英国」のビジョンを描く必要があると筆者は思う。

果たして、それは誰になるのか。

離脱強硬派、緩やかな離脱派、そして残留派が混在する、分裂状態の保守党の中に、そんな人がいるのだろうか。

「離脱派も残留派も幸せに暮らせる英国」のビジョンを描ける人材は出てくるだろうか。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。


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プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

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