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コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務所の「失敗の本質」
「創業家支配企業」でガバナンスを構築する難しさ
第三に、今回の事件は「創業家が100%株式を所有している企業でガバナンスを構築することがいかに難しいか」を示している。中古車販売業ビックモーターの保険金不正請求事件でも問題となったが、会社法が要求する内部統制構築義務は創業家完全支配型企業では実効性を確保することが難しい。取締役会は開かれず、全てが創業家の胸三寸で決まり、周囲は忖度するばかり。東証コーポレートガバナンス・コードが要請するような企業統治(ガバナンス)は、全株式を創業家が保有する非公開会社では「無いものねだり」になる。
本来であれば、そうした創業家完全支配企業であればこそ、事業の継続性と企業の持続可能性(サステナビリティ)を担保するために、外部の視線を組織内に注入できる人材を確保していくべきであろう。しかしジャニーズ事務所はそうした人材を「不要」とみなしていた。その奢りこそが、BBCという「外からの指摘」を軽視し、「ビジネスと人権」というグローバルな潮流を見誤り、そして日本国内の世論をも侮る結果をもたらしたのだ。
今回の事件では、圧倒的な影響力を持つ性加害者に対して被害者が一種の「愛着」を感じてしまう心理現象「トラウマ・ボンド」(外傷的絆)の存在も指摘されている。数百人を超えるとされる被害者の心理的ケアと補償は途方もなく大変な仕事になる。他方でジャニーズタレントに熱狂した青春時代を過ごしたり癒やされたりしたファンも多い。功罪を乗り越えジャニーズ事務所が今後も社会に貢献をしたいと望むのであれば、被害者救済に最善を尽くし、表紙を変えるだけでなく「所有と経営監督と執行」を分離させ、事業譲渡を含めて組織を抜本的に再編することによって、過去を実質的に清算することが少なくとも必要だ。
そうした上で改めて「明日の"私たち"へ。一歩ずつ。」と呼びかけた時に、ファンはどう応えるか。それにジャニーズ事務所の将来はかかっている。
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